Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

巨匠から新鋭まで、アジア映画のうねり

紀平 重成

1948年生まれ コラムニスト(元毎日新聞記者)

クー!キン・ザ・ザ

一度観たら忘れることができない作品ってありますね。私の場合は『不思議惑星キン・ザ・ザ』でした。モスクワらしい街かどで宇宙人から呼び止められた男二人が空間移動装置を誤って押してしまいキン・ザ・ザ星雲のプリュク星へとワープするお話。使われる言葉は「クー」と「キュー」だけというこの星で展開される珍道中は制作当時(1986年)の旧ソ連体制への皮肉に満ちていて大いに楽しめました。 その実写版に続いて同じゲオルギー・ダネリヤ監督が2013年にアニメ版として制作したのが本作です。実写版ではソ連全土で1520万人もの驚異的な観客動員を成し遂げた監督。よくぞ新たに制作意欲を湧きおこせたものだと感心しましたが、そこは皮肉屋の映画監督です。アニメ版では自由主義体制に変わって新たに富める者と貧する者との分断が表面化した現代ロシアを風刺しています。 映画のラスト近く、プリュク星から何とか地球に戻ることができた二人が頬を2回たたき膝を曲げて「クー!」と除雪車にあいさつする場面があります。わずかな旅をするぐらいで異世界のマナーに染まってしまう人間の弱さを皮肉っているのでしょうか。それとも政敵や一般市民が次々と弾圧されていくような世界各国の専制体制の拡大への警告? ダネリヤ監督は19年に88歳で亡くなりました。生きていれば作品にどんな皮肉を込めたでしょうか。

21/5/6(木)

アプリで読む