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ノージャンル、ノーボーダー。個人的アンテナに引っかかるもの

佐藤 久理子

パリ在住、文化ジャーナリスト

スパイの妻〈劇場版〉

黒沢清監督初の時代もの、作り込まれたセットと8Kカメラによる流麗な映像など、本作はこれまでの黒沢作品とは趣を異にする要素が多い。また彼とともに『ハッピーアワー』の濱口竜介監督と野原位も参加した緻密な脚本は、キャラクターそれぞれの異なる視点を入れ込んだ重層的な構造で、観る者を惹き込む。 特に高橋一生扮する夫の、どこまで信じていいのか分からない不透明さと、蒼井優演じる妻の女の怖さとしたたかさが滲み出た夫婦像は、“純粋な夫婦愛”を超えて謎を突きつける。 太平洋戦争前夜、満州への旅でたまたま日本軍の軍事機密を知ってしまった夫は、果たして以前と同じ自分に戻れるのか、という倫理的な問題も含め、骨太な社会派映画とも言える。 わざわざ素人っぽく撮られた、映画内に登場する9.5ミリの映像のインパクトも強烈。ヴェネチア映画祭監督賞受賞も納得の作品だ。

20/10/13(火)

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