是枝裕和監督の作品のファンなら、この香港映画を間違いなく気に入るだろう。ていねいに描かれる感情の揺れ、少しずつ進む物語の時間感覚、もつれた糸をほぐすようにだんだんとゆるめられていく人間関係。まるで是枝作品のような映画空間の醍醐味が、本作にはたっぷりと詰まっている。 父親が亡くなり、遺された携帯電話に自分と似たふたりの女性の名前を見つけ、連絡をとってみた。そして葬儀の日に、それぞれ母親が違う3人の姉妹が初めて相まみえる……ってまさに日本映画のような設定。本作がさらに面白いのは、異母姉妹の物語が、火鍋の料理と重なって描かれていることだ。亡くなった父親の火鍋店を維持するため、味が失われたままの麻辣スープの調合に挑むという展開が料理漫画みたいでとても楽しい。 そしてすべてが精巧なセットで組まれたという火鍋店の店内が、本当に居心地が良さそうで、こんな店があったらぜひ足を運んでみたい。全編が旨そうで、豊かな人間味に溢れていて、実にしみじみと情感が堪能できる作品である。

21/10/29(金)