Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

注目されにくい小品佳作や、インディーズも

吉田 伊知郎

1978年生まれ 映画評論家

『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』公開まで待ちきれない! これがゴジラだ!怪獣だ! 新文芸坐 大ゴジラまつり

『ゴジラVSキングギドラ』(5/24) 新文芸坐 特集「『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』公開まで待ちきれない! これがゴジラだ!怪獣だ! 新文芸坐 大ゴジラまつり」(5/18~24)で上映。 レジェンダリー・ピクチャーズ版としては第2作となる『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(邦題を『怪獣王ゴジラ』にしてほしかったが)の公開を目前に控え、新文芸坐では同作に登場するゴジラ、モスラ、キングギドラ、ラドンに絡めた歴代の怪獣映画を1週間にわたって特集する。昭和ゴジラから平成ゴジラ、ミレニアムシリーズにハリウッド版と、生誕65年を迎えるゴジラを中心に、各時代に製作された東宝怪獣映画を一望する絶好の機会でもある。 その中でも、筆者の目に大きく飛び込んできたタイトルは、『ゴジラvsキングギドラ』(1991)である。平成ゴジラシリーズと総称される中の1本だが、前作にあたる『ゴジラvsビオランテ』(1989)と並ぶ意欲作だ。 平成ゴジラシリーズは、一貫して特技監督を務めた川北紘一に負うものが大きいが、『vsビオランテ』『vsキングギドラ』の脚本・監督を手がけた大森一樹の存在を抜きにはできない。原点回帰を目指した1984年版『ゴジラ』が暗く重い映画になってしまった後を受けて、大森の初登板となった『vsビオランテ』では、テンポアップ重視の爽快なエンタテインメント路線へと転換を図り、現代ゴジラ映画の理想的な形を提示した。 そして二度目の登板となった『vsキングギドラ』では、ゴジラ映画をさらに活性化させるべく、とんでもない奇想が山のように盛り込まれている。まず、ゴジラを戦時中のマーシャル諸島に生息していた恐竜として登場させ、その後のビキニ環礁水爆実験でゴジラへと変貌したと定義付けている。そして未来人がタイムスリップして恐竜をマーシャル諸島から他の場所へと移動させることでゴジラの誕生を阻止する。つまり、未来を変えることでゴジラは居なかったことになるわけで、これまでのゴジラ映画もなかったことになるわけだ。 本作以前も以降も、観客ばかりかむしろ作り手が第1作の『ゴジラ』を〈神聖にして侵すべからず〉聖域的位置に置いて引きずられていたことを思えば、この大胆な奇想は驚かせるに十分だった。しかも、本作の製作はゴジラの生みの親である田中友幸プロデューサーなのだから、よくぞこの設定を了解させたというべきだろう。 今回の対戦怪獣であるキングギドラも、未来の愛玩動物(と当初は現代人に説明される)として登場し、ゴジラが辿ったはずの運命に置き換えられられることでおなじみのキングギドラへと変貌する。従来は宇宙から飛来したキンキラキンの空飛ぶ三頭怪獣だったが、ようはリアリティ重視では扱いに困る怪獣なのだから、何でもアリと開き直るしかない。 本作は、その開き直り方が良い。未来人とのアクション、タイムスリップ、UFO内の銃撃戦などが盛り込まれているが、露骨に『ターミネーター2』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『エイリアン』あたりからの影響大だけに、公開時はその点を批判する声もあった。〈何十分の一の予算で模倣するのは如何なものか〉という意見である。それにタイムパラドックスによる辻褄の合わなさは、注視しないと気づかないレベルではない。それでいてなお支持したくなるのは、これくらい派手に勢いを付けて活性化させてくれないと、ゴジラ映画は面白くならないからだ。 それに刺激されたかのように、川北紘一特技監督による特撮パートも好調で、本作以降は年に1本のゴジラ映画が作られることになったことから、クオリティや鮮度という意味では必ずしも毎回満足できなくなっていったが、前作から2年を空けての本作では時間的余裕もあったのだろう、凝った特撮を堪能できる。これまでのように、スタジオに東京や大阪の巨大なパノラマセットを作るのではなく、カット単位のレイアウトに沿ったセットを組むことで効率化させ、札幌のテレビ塔、福岡、新宿都庁などの充実したミニチュアを観ることが出来る。殊に都庁を前にしてのゴジラとキングギドラの対戦は、84年版『ゴジラ』で中野昭慶特技監督が手がけた新宿副都心のクライマックスと同じ場所だけに、アングルを重ならないように変化をつけた上で、川北監督からの返歌というべき名場面になっている。バブル最期の時代に作られた最も華やかなゴジラ映画である。

19/5/23(木)

アプリで読む