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エンタテインメント性の強い外国映画や日本映画名作上映も

植草 信和

1949年生まれ フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

荒野の誓い

最後に見た西部劇は『マグニフィセント・セブン』だから、『荒野の誓い』は2年数か月ぶりの新作西部劇鑑賞になる。時代劇と西部劇で育った世代としては、“よくぞ作ってくれた!” “再び新作西部劇を見られた!”という歓喜が沸く。だが同時に、半世紀も前に罹った自称“ソルジャー・ブルー病”が脳裏から離れない2時間15分の鑑賞になった。  『ソルジャー・ブルー』はラルフ・ネルソン監督の1970年の西部劇で、騎兵隊がインディアン (現在は「ネイティブ・アメリカン」と呼称)を虐殺した実際の事件をリアルに描き衝撃をあたえた。西部劇の転換点に位置し、それ以降、インディアンを単純な悪役として表現する西部劇は作られなくなった。 『荒野の誓い』の舞台は1892年のニューメキシコ州。かつてのインディアン戦争の英雄である騎兵隊大尉のジョー・ブロッカーに、ある大統領令が下る。それは十年前のその戦争で騎兵隊と敵対し、今は牢に閉じ込められている余命わずかなシャイアン族の酋長イエロー・ホークとその家族を、彼らの故郷モンタナ州へ護送せよとの軍令だった。本作は、ニューメキシコ、コロラド、モンタナに至る騎兵隊とインディアン混成の苦難のロードムービーという構造をとっている。 宣伝コピーには、「新たなマスターピースの誕生」とあるが、一概に誇大コピーとは言い切れない「問題提起」が含まれている。『ソルジャー・ブルー』が提起した“白人対インディアンの憎しみの連鎖”に応えようとしている姿勢が鮮明に見てとれるからだ。 祖父と父母を白人によって殺されたインディアンの少年、夫と三人の子どもを惨殺された寡婦、インディアンへの憎悪に生きる騎兵隊員の三人が、列車に乗り込むラスト・シーンがその象徴。西部開拓史の史実を真摯に受け止めつつ、人種差別を克服しようとする製作陣の願いが込められているように思われる。 製作、脚本、監督を務めるのはジェフ・ブリッジスにアカデミー主演男優賞をもたらした『クレイジー・ハート』のスコット・クーパー。主演は『ザ・ファイター』『バイス』の“カメレオン役者”クリスチャン・ベール。『ファーナス/訣別の朝』(2013)以来のタッグ作品だ。

19/9/2(月)

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