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水先案内人のおすすめ

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巨匠から新鋭まで、アジア映画のうねり

紀平 重成

1948年生まれ コラムニスト(元毎日新聞記者)

椿の庭

この作品、もしかしたら映画のもう一つの主人公は、葉山の海を望む高台に古民家を移築した一軒家なのかもしれません。確かに14年ぶりの主演映画となる富司純子と『新聞記者』のシム・ウンギョンが祖母と孫娘役で共演し、移ろう四季のはかなさと美しさをじっくりと見せてくれる展開は味わい深いものがありますが、ガラス戸や木の廊下、畳など使い込まれた家の存在感は家自体が呼吸をしているかのように圧倒的です。あるこじんまりとして好感を持った家が突然空き地に変わって喪失感にとらわれた15年前の思いを基に上田義彦監督が「限りある人の生」と「残された記憶」の関係に思いめぐらす異色の作品です。 夫や家族と語らった思い出深いこの家で今は孫娘の渚と住む絹子にも大きな変化が訪れようとしています。季節の花や生き物など命あるものはやがて朽ちる時がくると分かってはいても、彼女には家から離れるつもりはないようです。ある日そんな絹子へ一本の電話がかかってきます。人生の店じまいを考える人には打ってつけの作品かもしれません。 映像に重ねて時折ブラザース・フォアの『トライ・トゥ・リメンバー』が流れます。この曲を聴きながらソファーでくつろぐ絹子(富司純子)の和服の着こなしにはほれぼれとされる方もいらっしゃるでしょう。

21/4/3(土)

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