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水先案内人のおすすめ

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パール兄弟、作詞家、プロデューサーとして、音楽を中心に活動中

サエキけんぞう

ミュージシャン

グッド・ヴァイブレーションズ

ザ・ビーチ・ボーイズの映画ではない。アイルランドのパンクシーンを作り出したナイスな親父の泣かせるレコード店&レーベル『GOOD VIBRATIONS』の話だ。THE UNDERTONESなどを送り出したテリー・フーリーの実話を下敷きにした音楽ドラマで、例によってエンドロールの実物写真で、ソックリと確認できる俳優リチャード・ドーマーを使った、迫真のセミ・ドキュメント風の劇映画だ。 アイルランド音楽映画といえば、『ザ・コミットメンツ』『ONCE ダブリンの街角で』『シング・ストリート未来へのうた』と、泣かせる映画がどんどん浮かんでくる。「今度は泣くもんか!」と斜にかまえて観始めたが、今回も泣いた。フィクションであるそれらと比べて、こちらは実話の重みが凄い。 1970年代の激しい北アイルランド紛争は、純粋なニュースで結構伝わってきたが、本作はその迫真の状況を伝える映像から始まる。しかし主人公のテリーは、心底脳天気なDJであり、観ている側は、重さを気にせずに楽しめる。困難に直面しながらも、客無しの中で出会ったグッドな女性ルースと人生を切り開いていく。 主人公達の人間性のおおらかさに救われる。70年代のかつて、日本の僕らの音楽シーンもこのおおらかさがあった。音楽好きの人間の、芯のある優しさのようなものに触れることができることが最大の収穫なのである。 パンクは一本調子の音楽であるが、その中に人間くささが存分に味わえることが、この映画の魅力だ。パンクの魅力に新しく気づくこと請け合いである。甘くはない現実に、音楽がどう対峙できるか? アナログマニアの人も必見のレコード屋シーンが満載で、資料的な価値も高い映像である。

19/7/30(火)

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