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三鷹市芸術文化センターで、演劇・落語・映画・狂言公演の企画運営に従事しています

森元 隆樹

(公財)三鷹市スポーツと文化財団 副主幹/演劇企画員

あごうさとし『-音楽舞台劇-“触覚の宮殿”』THEATRE E9 KYOTO オープニングプログラム

今から35年近く前、広島の片田舎から東京の大学に進学し、まだなんら東京に馴染むこともなく、恐る恐る人間関係を広げていた5月、知り合ったばかりの友人に「こういうのあるんだけど」と紹介されチケットを購入して観に行った舞台が、早稲田大学大隈講堂裏での『大/早稲田攻社』のテント公演だった。今でこそ、演劇公演の全国ツアーも当たり前のようになっており、たまに実家に帰ると、地元のテレビ局が公演に絡んでいるようで、舞台告知のCMが繰り返し繰り返し流れていたりするが、35年前の広島ではおそらく、老舗の劇団が演劇鑑賞会に旅公演を買ってもらって公演するのが唯一と言っていいほどの環境だったはずなので、私自身、舞台らしい舞台を観たのは、そのテント公演が初めてだった。横長の舞台に、客席はひな壇状に3段、その2段目の隅に座って文庫本を読んでいた私は、やがて音楽が大きくなり、徐々に舞台が暗くなっていった次の瞬間に、大きく心を揺さぶられる。 「この人たちは、どうやって舞台に出てきたのだろう?」 暗転、そして暗転後に照明が点くと、役者が舞台上にいて、いきなりセリフを喋り始めたことに、ただただ驚いたのである。もちろん舞台も楽しんだが、舞台の途中で再び暗転が訪れることもあることを知ると、私はとにかく暗転を待ち構え始めた。 「次こそ、暗闇の中で歩く役者さんたちを目視したい!」 蓄光テープの存在などもちろん知らなかった私は、暗転の中で出てきたりいなくなったりする役者さんや、暗転中に変わる舞台セットや小道具に釘付けになり、広島時代には味わったことのない『舞台での暗転というマジック』に吸い込まれるように、観劇が趣味となっていく。 それから35年。大学卒業間際の頃から、ほんの少し触るように自分でも劇団を主宰して作・演出を務めたりしていた私は、やがて現在の『劇団公演や演劇プロデュース公演を公立ホールで上演する』という仕事に従事するようになり、勤務時間以外の空いた時間を使って年間100本~150本くらいの舞台を拝見する中で、良い作品だなと感じた劇団やアーチストに、お声を掛け続けてきた。もちろん、大きな劇場での公演も数多く観てきたが、割と若い劇団の公演に足を運ぶことも多く、そのほとんどは、「ザ・スズナリ」「駅前劇場」「OFF・OFFシアター」といった下北沢の劇場であったり、「花まる学習会王子小劇場」「こまばアゴラ劇場」「シアターグリーン」「サンモールスタジオ」「中野ザ・ポケット」「シアター風姿花伝」「新宿シアター・ミラクル」を始めとした数多くの民間の劇場であった。これら民間の劇場で旗揚げし、脚本・演出・演技力を研ぎ澄ませながら公演を積み重ね、力を付けていく劇団の数々を、何かのきっかけで私は拝見し、数多くの劇団に三鷹での公演をお願いしてきた。昨今評判の劇団や作・演出家も、もちろん最初から大人気だった訳ではない。初めのうちはどちらかの劇場で、大志を胸に秘めながら公演を打ち続け、やがてその実力が認められ、注目を浴びるようになっていったのである。数多くの民間の劇場が、ゆりかごのように、今後が期待される劇団を、温かく見つめ続けてきたからこその、今現在の日本の演劇シーンの土壌である。公立ホールに従事する者として、民間の劇場へのリスペクトは決して忘れることはない。 然るに京都においては、2015年~2017年にかけて、様々な理由で5つの小劇場が閉鎖となった。中でも、京都の小劇場界の中核にあった『アトリエ劇研』の閉鎖は衝撃的であり、着実に、そして膨よかに実り続けてきた京都の演劇の土壌が、その底力で更に発展していくことを願うしかなかった。けれどもこの夏、その30年の歴史を誇った『アトリエ劇研』において2014年9月から(閉館した)2017年8月までデイレクターを務めた「あごうさとし」を中心として、並大抵では無い努力の末に、京都に待望の小劇場『THEATRE E9 KYOTO』がオープンするに至ったことに、最大限の敬意を表さずにはいられない。 6月22日、23日に茂山家による狂言『三本柱』で“こけら落とし”を迎えた『THEATRE E9 KYOTO』ではあるが、この公演はクラウドファウンディングに協力してくださった方々のご招待を中心とした(一般のお客様は)クローズドの公演なので、今回ご紹介する『-音楽舞台劇-“触覚の宮殿”』が、一般公開作品としては劇場初のプログラムとなり、『THEATRE E9 KYOTO芸術監督』に就任したあごうさとし自身の作・演出作品で幕を開けることとなる。 今後、8月9日~12日の劇団「MONO」30周年企画『涙目コント』公演を皮切りに、オープニングプログラムが目白押しのTHEATRE E9 KYOTO。「100年続く劇場を作りたい」というあごうの思いのもと、京都の演劇の炎が、この新たなる拠点を起爆剤として更に燃え広がり、その勢いに刺激され、日本各地の演劇シーンが新たな盛り上がりをみせていくことを、心から願って止まない。

19/7/19(金)

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