Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

長島有里枝「B&W」

東京都写真美術館での個展(2017年)以来の都内での久々の個展。展示規模はさほど大きくはないが、初期のセルフポートレート(東京都写真美術館での個展に出品した小サイズバージョン)、祖母の遺品の大量の押し花を使ったフォトグラム作品(群馬県立近代美術館での個展に出品)、「後でこれ一体何を撮ろうとしたのだろうと思う写真があることに気づいた」と語る長島が選んだスイス滞在時に撮影した風景写真を、木の板に感光剤を塗布してプリントした作品(横浜市民ギャラリーあざみ野に出品)を改めてゆっくりと味わうことができる。 家族や友人をテーマとしてきた長島が祖母の遺品(丹精込めて育てた庭の花、大量の押し花や鏡台のなかの整髪道具等々)に触れ、それらを自らの手で「無名の人が生きた証」として作品化していく過程、そして「何を撮ったのか記憶が定かではない写真」をあえて木の板にプリントする試みが興味深い。いずれも長島自身による手焼きで、「プリント作業は、暗闇の中で自分が切り取ったイメージと再会し、対話する場所のようなもの」「わたしはそこで、単なるイメージだと思われているものを世界に存在する物質に置き換えます」と語る。 インターネットを介して写真イメージがヴァーチャル空間を行き交い、新型コロナウィルス禍によって「触覚」を通じたコミュニケーションが閉ざされた今、改めて写真イメージに物質性を与えようとする試みが身に滲み透る。自らの身体も「物質」である以上、イメージもまたギリギリの物質性をもって初めて人の生に「意味」を持つのではないか、という問いなのだと思う。 大学在学中にデビューして以来、世間の「常識」に対して挑み続けてきたアーティスト。その「筋金入」の生き方と心意気の一端に触れられる絶好のチャンスなのだ。

20/10/31(土)

アプリで読む