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映画史・映画芸術の視点で新作・上映特集・映画展をご紹介

岡田 秀則

1968年生まれ、国立映画アーカイブ主任研究員

粛清裁判

スターリンの恐怖政治は誰でも知っている。だがこの映画で扱われている、スターリン台頭期にあった「産業党裁判」のことは知らなかった。とはいえ、この見せしめ裁判についてネットで調べてみたものの、この映画を知るのに必要な背景は、映画内で示されたことで充分と思われた。 ここでは被告たちに弁明の機会はあるが、それは一応あるだけで、すべてが決められていたかのように残酷な判決が下される。どんな圧力が加えられたのだろう、被告たちは羊のように従順に「自白」する。結局私たちは、このスムーズに整えられた映像を通じて、その何もかもがが信じがたい裁判の成り行きを見つめるしかない。私たちが見つめているのが、あくまで一本の「映画」であることに徐々に苛立ってくるほど、「映画」として完成している。そして、その映像の奇妙な鮮明さも私たちを幻惑する。デジタルで修正が加えられているのだろうが、その生々しさから、これはすべて俳優による演技であり、傍聴者もどこかから集められてきたエキストラではないのかという禁断の疑念さえ生じてくる。 現在の目で見ればあまりに絶望的な史実のアーカイブは、その後も簡単に明るみに出るものではなかったようだ。だが時間は人の認識を変容させる。長く眠っていた負のイベントの映像も、ようやくタブーではなくなった。その間隙を、史実とアーカイブの「時間差」を知り尽くした監督セルゲイ・ロズニツァは衝いてくる。見終わって私たちは気づくだろう、過去は直接現在を召喚し得るものであり、これは自分たちの生と強く結びついた映像なのだと。

20/11/11(水)

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