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吉田 伊知郎

1978年生まれ 映画評論家

《ギンレイ・オールナイト『午前0時のフィルム映写会』》

25年ほど前だろうか、映画雑誌で若手だった頃の園子温監督と対談していた大島渚監督が「僕に言わせれば犯罪者なんて動機が分からないからやるんであって、動機があったら犯罪なんてやりませんよ」と発言していた。まさに大島映画に登場する犯罪者たちは、なぜ犯罪を犯すのか、誰も明確な動機など持っていない。 今回オールナイト上映される3本は、大島映画の中でも屈指の犯罪傑作集と言っていい。『日本春歌考』は、ガスストーブの管が外れたまま寝入ってしまった先生(伊丹十三)を、生徒(荒木一郎)が見殺しにする。なぜ彼は先生を助けなかったのか? 『絞死刑』で死刑執行に失敗して蘇生した在日朝鮮人のRは、自らの犯罪を再現する刑務官たちを冷ややかに眺めながら、何故自分が死刑にならなければならないのかわからないと言う。全国で当たり屋をしながら転々とする一家を描いた『少年』の幼い主人公は、その罪を警察に問い詰められたときも反省する素振りは見せない。彼らの犯罪の動機に〈退屈しのぎ・民族差別・貧困〉を挙げるのは容易い。だが、そこに絶対的な理由があるわけではない。ふとした瞬間に魔が射し込むことで彼らを犯罪に駆り立てるのである。その瞬間を描くために大島は映画を撮っているのではないか。実際、大島映画において、犯罪への境界を乗り越える瞬間がもたらす映画的快楽は圧倒的だ。 もうひとつ、この3本は風景の映画でもある。『日本春歌考』に登場する雪が降り積もる東京の九段下や完成間もない竹橋のパレスサイド・ビルディング、未開通の高速道路。『絞死刑』の荒川土手、貧民住宅地、新小岩駅前。『少年』の高知、尾道、松江、秋田、北海道など全国各地の名所旧跡を排して撮られた地方の風景。オリンピックを経て高度経済成長で変貌していく東京と取り残された風景、そして東京と地方の差異を鮮やかに映し出す。1960年代の日本の風景を大島渚ほど意識的に切り取ってきた監督はいない。この3本を再びのオリンピックの前に、またも大きな変貌を遂げる最中の東京で35mmフィルムによって観ることができるのは僥倖というべきだろう。

19/11/29(金)

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