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水先案内人のおすすめ

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歌舞伎とか文楽とか…伝統芸能ってカッコいい!

五十川 晶子

フリー編集者、ライター

6月歌舞伎鑑賞教室『神霊矢口渡』

歌舞伎の演目の中でもトップクラスに非道な父親が登場するのが義太夫狂言『神霊矢口渡』。中でもよくかかるのが、今回国立劇場で上演される〈頓兵衛住家〉の場だ。多才で知られる平賀源内が、福内鬼外という人を食ったようなペンネームで書いた浄瑠璃だ。 時代は南北朝。南朝方の武将、新田義興が非業の最期を遂げた矢口の渡しを舞台に、義興を謀殺した渡し守の頓兵衛と、傾城と逃避行を続ける義興の弟の義峰に横恋慕する頓兵衛の娘・お舟が登場する。 お舟は、女方ならだれもが一度は挑戦したいと思わせる役。なぜなら女方が最後の幕を切るから。劇中は女方の主人公が大活躍しても、最後の最後の幕切れは立役が、という演目が多い中、なかなか貴重な役なのだ。 今回頓兵衛をつとめるのは中村鴈治郎、そしてそのお舟をつとめるのは中村壱太郎。父子共演かつ二人とも初役だ。お舟は1974年に壱太郎の祖父の坂田藤十郎がつとめている。その祖父のお舟をベースに、市川猿之助にお舟を教わり、さらに人形振りにも挑戦するという。 ある場面だけ、黒衣姿の人形遣いが役者を操っているという体で、役者が文楽人形のような動きをする。これが人形振り。恋慕や悲しみなど、極まった強い感情や想いが凝縮されたかのように見えるユニークな手法だ。人が人形の動きを模倣するという単純な面白さと、運命に操られる人形の哀れさが相まって、何とも言えない表現となる。 もう一つ。「いやいやありえないでしょ、この父親」と思うほど、酷い親の頓兵衛が、娘を手にかけ、花道を引っ込む時の「蜘手蛸足」という型にも注目。年老いた肉体なのに、欲だけは深いこの頓兵衛。”気ばかり先走って体がついていっていない”ことをズバリ表現している。強欲な親仁がふと見せる情ない現実が伝わってくる面白い型だ。 『解説 歌舞伎のみかた』を中村虎之介、『神霊矢口渡』は、中村鴈治郎、中村壱太郎、中村寿治郎、上村吉太朗、中村虎之介、中村亀鶴。

19/5/25(土)

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