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水先案内人のおすすめ

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文学、美術、音楽など、映画とさまざまな構成要素に注目

高崎 俊夫

1954年生まれ フリー編集者、映画評論家

ちょっと思い出しただけ

松居大悟の新作はジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91) に想を得た尾崎世界観の新曲『ナイトオンザプラネット』をベースに書き上げたオリジナル。コロナ禍で不穏な空気が漂う2021年の東京を舞台に、タクシー運転手の葉(伊藤沙莉)と怪我でダンサーをあきらめた照明マン佐伯(池松壮亮)の現在から、一年ずつ佐伯の誕生日を遡行してゆく語り口で、ふたりの別れから出会いまでを定点観測してゆく趣向だ。 この時間を遡るという話法、シチュエーションで思い出すのは、フランソワ・オゾンの『ふたりの5つの分かれ路』(04) である。冒頭に、離婚手続きを終えた夫婦がベッドを共にして別れるシーンが置かれ、その別離の原因を探索するようにキーポイントとなる五つの過去の時間へと遡行し、ラストは至福で充たされたふたりの出会いのシーンで締め括られていた。オゾンはきわめてシニカルな眼差しでこのふたりの別れの必然を描いていたが、松居大悟は、そうした因果律的な発想からはまったく解き放たれている。あくまで、ふたりだけの固有の過去、そのささやかな、しかしかけがえのない時間の断片を慈しむように拾い集め、ふたたび現在へと投げ返すだけである。その控えめな、あくまで語り過ぎない<語り口>こそが、この映画のもっとも好ましい美点と言えるだろう。

22/2/1(火)

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