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水先案内人のおすすめ

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歌舞伎とか文楽とか…伝統芸能ってカッコいい!

五十川 晶子

フリー編集者、ライター

歌舞伎座九月大歌舞伎

第三部『東海道四谷怪談』。 なぜだろう鶴屋南北の芝居になると、大看板の俳優たちから腕っこきの名題下の俳優に至るまで、普段とはまた違う魅力を発揮するような気がするのは。義太夫狂言など型を軸に演じられる狂言とは違い、江戸の雰囲気をまとった一人ひとりが、俄然いきいきと江戸の町に暮らし、自在に走り回っているように見えてくる。以前ある俳優は南北作品について「型があるようでない、ないようである。役の性根をつかんでいないと一歩も動けないし、つかんでいればどうとでも動けるんです」と言っていたのを思い出す。 中でもこの『東海道四谷怪談』は南北作品の中でも最高傑作と言われる。特に通し上演の場合、お岩や伊右衛門、直助権兵衛にお袖と佐藤与茂七など、一人一人の登場人物の人生がリアルに描かれ、それらが交差し、人間模様が複雑にからまっていく様が描かれる。客席にいながらにして、まるでこっそり江戸の町にタイムスリップし、彼らの暮らしをぞき見しているかのようだ。南北作品の醍醐味はそこにあるのかもしれない。 今月はその中でも前半のハイライト的な幕を中心に上演される。相好が崩れ亡霊となるお岩、そしてお岩をそこまで追い込んでしまったのが民谷伊右衛門だ。この伊右衛門は歌舞伎の登場人物の中でも筆頭の、美貌で残酷な男。といってもお家を転覆させるなどスケールの大きい実悪のような敵役ではなく、出世欲、金や色への欲など、自分の欲望を満たすことが行動原理。歌舞伎の色悪の典型だ。世は江戸の文化が爛熟期を迎える文化文政時代。色悪が芝居の主役として求められていた時代、アンチヒーローの時代でもあったのだろう。 その伊右衛門を片岡仁左衛門、お岩を坂東玉三郎の極上のコンビで観られる絶好の機会だ。

21/8/26(木)

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