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Tak

美術ブロガー

石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか

日本人として初めてのグラミー賞受賞者であり、アカデミー衣裳デザイン賞や北京オリンピックの開会式では衣装デザインを担当するなどまさに世界を股にかけて活躍した石岡瑛子(1938-2012)の初の回顧展です。石岡ほど多くの肩書を持つアーティストは存在しません。しかし悲しいかな彼女の日本国内での知名度はさほど高いとはいえません。藝大卒業後しばらく資生堂やパルコなどのグラフィック・デザイナーとして活躍したのち、1980年代に日本を離れニューヨークを活動の拠点としたことも大きな要因かもしれません。ただそれと引き換えに冒頭にあげた華々しい活躍を成し遂げたのです。 海外での活躍を映像と音そして実際の舞台衣装を交えての動的な展示は、よくありがちな衣装展、デザイナー展とは明らかに一線を画します。まるで、映画、オペラ、サーカスなどその場に居合わせているかのような見事な展示空間を作り出しています。ただ、一番注目したのは日本でのデザイナー時期に多く展示してあったポスター等の入稿原稿や色校正です。決して表に出ることはなくとも、自分の仕事を徹頭徹尾やり遂げるのだというグラフィック・デザイナーとしての矜持が見て取れます。他にも、コンセプト案、衣裳のデザイン画、PVの絵コンテなどには名声を得た後も変わることなく仕事に妥協を許さない石岡のスタンスが貫かれています。会場にかなり大きな音で石岡の肉声が絶え間なく流されているのも通常の展覧会とは違う点です。鑑賞者全員が知らず知らずのうちに石岡ワールドに没入しているのです。 三島由紀夫に、ビョークのミュージックビデオやフランシス・コッポラ監督の映画「地獄の黙示録」のポスターなど他にも見どころ随所に散りばめられています。そして最後にポツンと展示してある「えこの一代記」と題された絵本にグッとさせられます。それは石岡が少女時代に手掛けた「彼女の初めての作品」です。世界の人々に読んでもらうように英語(当時はタイプライター!)で記されたテキスト。最後の大きな仕事となった映画『白雪姫と鏡の女王』衣装デザインと、同じ部屋に展示してあるのも得も言われぬものがあります。世界で羽ばたく夢を自力で叶えた石岡瑛子。まだまだ日本では知名度は低いかもしれませんが、こんな時だからこそ観ておきたい展覧会でもあります。

20/12/26(土)

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