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三鷹市芸術文化センターで、演劇・落語・映画・狂言公演の企画運営に従事しています

森元 隆樹

(公財)三鷹市スポーツと文化財団 副主幹/演劇企画員

松尾スズキプロデュース 東京成人演劇部『命、ギガ長ス』

観劇に行くと、ずっしりと重たいチラシ束をいただくことがある。どう思うかは人ぞれぞれで、何が正解ということはない。「帰りに重くって」と劇場のゴミ箱に捨てていく人がいたとしてもそれはそれで仕方ないことだと思う。ただ、自分自身が演劇の世界の片隅にいて、なんとかお客様に訴求しないかと、一人でも多くのお客様に観てもらえたらとアイデアを出し合い、校正に校正を重ねて(それでも納品後に誤植が見つかって気が狂いそうになりながら)チラシを作っているので、私の場合はどうしても、全く見ずに捨てる気にはなれない。そういえば、担当する公演のチラシを三鷹の駅前で配ることもあるのだが、「三鷹市芸術文化センターでの演劇や落語公演のチラシです!」と声を出し、決していかがわしいチラシを配っているわけではないとアピールしても、なかなか手にしてもらえるものではないし、ふと後ろを振り返ると、先程渡したはずのチラシが、海底を泳ぐ蛸のように地面を這っていたり、競馬場のハズレ馬券の如く風に舞っていたりする。その作業を経験すると、駅前で懸命にティッシュを配っている人がいると「もらってあげよう」という気持ちになるから、苦労は買ってまではしたくないものの、ほんの少しだけ私に優しさを教えてくれる力はある。 なので、チラシ1枚1枚に込められた想いや労力を感じすぎてしまって、とても見ずに捨てることのできない私は、どんなに重くても自宅に持って帰り、そのチラシ束に一通り目を通すのだが、数多くの魅力的な公演に目移りする中、今回のチラシに、瞬時に目が止まった。 「あっ、この2人の組み合わせは面白そうだなあ」 2つ折りのチラシの中面には、こんな文章が載っていた。 <<<>>> 松尾スズキです。去年芸能生活30周年を迎えました。 魑魅魍魎跋扈する芸能界で、30年、信念をまったく曲げずに生きてこられた。 もしかしたらこれって奇跡なのかもしれない、という、 その勢いのどさくさに紛れて、 劇団を新たに作ってみます。いや、劇団ではないな。 部です。ほぼほぼ演劇部です。部活です。 思いかえせば、学生演劇をやっていた頃が一番楽しかったのではないか? そんな思いがあります。自戒のような思いです。 26歳で劇団を作ってからというもの、 失敗したらホームレス、という、プレッシャーとばかり戦い、 楽しむことを忘れてしまったのではないか? 苦しむことが常態化し、 苦しみに慣れることを「楽しい」と錯覚して来たのではないか。 そんな迷い? 惑い? 疑心暗鬼?  から、いったん自由になってみたい。 演劇を再び、楽しみたい。 そこからまた大人計画と向き合いたい。 ああ。演劇部がやりたい。 そんなわけで、次がいつになるかはわかりませんが、 今回は、今、松尾にとって、 もっとも演劇部のイメージに近い女優、 と、勝手に思っている安藤玉恵さんと、二人芝居。 第一弾『命、ギガ長ス』です。 よろしくお願いします。 <<<>>> 文中の「学生演劇をやっていた頃」という表現からは『大学時代』の匂いもするが、「演劇部」と銘打ってあると、どうしても『中学高校時代』を想起してしまう。大学は、やはり「サークル」か「演劇研究会」だろう。いずれにしても、松尾スズキが「演劇部のように演劇をやりたい」第一弾である。大人計画の松尾スズキに、元ポツドールのミューズ安藤玉恵の二人芝居で、ユニット名が『東京成人演劇部』とくれば、「R指定?」と思ってしまうほど、決して相反すること無く「ライト、且つ、濃厚」な気配が充満していく。 「もっとも演劇部のイメージに近い女優」と松尾スズキに勝手に思われていた安藤玉恵が、実際には中学高校時代は演劇部に所属していなかったという事実はさておき、今この時、演劇部の女子部員としての安藤が、先輩男子部員の松尾スズキと、どんな二人芝居を作り上げるのか。 興味は尽きない。

19/7/3(水)

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