Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

一瞬がすべてを救う映画、だれも断罪しない映画を信じています

相田 冬二

ライター、ノベライザー

花束みたいな恋をした

はやくも2021年度ベストワン候補映画の登場である。 『いま、会いにゆきます』からスタートした映画監督、土井裕泰にとって、これはドラマ演出家としての辣腕とセンスを初めて駆使したものと言えるかもしれない。 『罪の声』までは、あくまでも映画としてのディレクションに、稀有なコーディネート力を傾けてきたと思える土井が、ついに“伝家の宝刀”を抜いた、そのように思えるのである。 それが実現した理由は、おそらくひとつしかない。 これが、原作のない、坂元裕二のオリジナル脚本だからである。 土井のこれまでの映画はすべて原作があった。 ここまで伸び伸びと呼吸している土井作品は、隠れた名作『ランデヴー』(連ドラ)以来ではないか。 早稲田大学の劇研に属し、山の手事情社の舞台役者でもあった土井は、ある高名な女優によると、「女性の役を演じても、誰よりも上手い」のだという。 ドラマにしろ、映画にしろ、「こんな感じで」と演じ手のために演じて見せる監督は存在するが(例えば三池崇史)、それが土井は格別に優れている、とその女優は敬意をこめて、私に語った。 『花束みたいな恋をした』は、土井の演劇力、ドラマ力、映画力のすべてを結集した夢のような作品であると断言できる。 学生時代から社会人へと至る同棲カップルの光と影を、主に室内の情景を基調に、まるっと描き出す。 ロケも素晴らしいが、屋外の光景は、Google以後の私たちの感覚に落とし込まれるものでもあり、そのような豊かな現代性がまぶしいからこそ、主人公たちの出逢いと別れが、より一層、響く。 部屋の映画。 ふたりの部屋という主題を、ここまで優しく突き詰めた作品も、映画史には見当たらず、だからこそ、菅田将暉も、有村架純も、キャリア最良の演技をここで見せる。 恋愛に、第三者を介入させず、それぞれが、それぞれでいることによって、本質的な齟齬と葛藤が生じるという真実の提示も、究極の自然体によってなされている。 真にオリジナルな映画。 それを目撃することなしに、2021年は始まらない。

21/1/27(水)

アプリで読む