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水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
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音楽は生活の一部、映画もドキュメンタリー中心に結構観ています

佐々木 俊尚

1961年生まれ フリージャーナリスト

返校 言葉が消えた日

1962年、台湾のとある高校を舞台にした作品。本作を楽しむためには、当時の台湾の国内情勢を知っておいたほうがいい。 戦前の台湾は日本の統治下にあったけれども、戦争が終わって支配権は中国に戻る。しかし当時の中国は共産党と国民党による内戦が続き、最終的に共産党が勝利して大陸を支配すると、敗れた国民党は台湾へと逃げ込み、ここに中華民国政権を打ち立てて、以降は大陸の共産党政権と台湾の国民党政権という“ふたつの中国”時代が続いた。 しかし台湾にもともと住んでいた人たちから見ると、大陸からやってきた国民党政権の人々はよそ者。そこで彼らを「外省人」と呼び、もともと台湾にいた人たちは「本省人」と呼ぶようになった。よそ者の外省人たちは暴力的で、これに怒りをおぼえた本省人たちは1947年に大規模な抗議デモを起こしたが、外省人たちは武力で徹底的に弾圧。この弾圧は1980年代半ばまで続き、この時代を「白色テロ時代」という。本省人たちは拷問などで殺害され、犠牲者数は2万人以上におよんだと言われている。知識人たちもこぞって逮捕投獄され、自由に本を読むことも禁じられ、徹底的に自由は抑圧された。 1962年というのは、台湾の人々にとってはそういう時代だった。主人公の高校生たちはそれでも本を読みたくて、秘密の読書会を開き、インド独立運動の精神的支柱だった詩人タゴールの詩を読む。しかしその読書会の存在がやがて当局にばれ、弾圧が始まる……本作はそういう物語である。 本作は『返校 -Detention-』というヒットしたホラーゲームが原作になっている。わたしはそれを知らずに観て、物語の始まりがまるで『サイレントヒル』みたいにゲームっぽい雰囲気なのに驚かされた。しかし観ていくうちに、このホラーゲーム的な要素が途方もなく抑圧的な政治的な情勢が重ね合わされ、当時の台湾の人々の置かれている暗い状況が重く立体的に伝わってくるようになる。 ラストシーンまで観て、その結末のあまりのものがなしさに言葉を失う。台湾映画にまた傑作が登場した。

21/7/2(金)

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