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水先案内人のおすすめ

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文学、美術、音楽など、映画とさまざまな構成要素に注目

高崎 俊夫

1954年生まれ フリー編集者、映画評論家

ストックホルム・ケース

破滅派の伝説的なトランぺッター、チェット・ベイカーの生涯を描く『ブルーに生まれついて』(15)のイーサン・ホークとロバート・バトラー監督がふたたびタッグを組んだ。憂愁に満ちたグルーミーな味わいの前作とは対照的に、こちらは、かの有名な<ストックホルム症候群>の語源となった、1973年にスウェーデンのストックホルムの銀行で起きた実際の銀行強盗による立て籠り事件を素材にしている。 犯罪者ラース(イーサン・ホーク)と人質となった銀行員ビアンカ(ノオミ・パラス)との間に長い時間を共有することで生まれる親密な感情を、時にはシリアスなタッチで、時にはオフ・ビートな笑いに包んで描く手腕はなまなかではない。 ラースが目論んだ、いい加減な逃走計画は、またたくまに頓挫し、首相まで巻き込んだ立て籠り事件は長期戦の様相を帯びてくる。警察は、ときに卑劣な手を使って交渉を長引かせ、やがて銀行内に閉じ込められた者同士は奇妙な連帯感で結びついてゆく。この紐帯には劇中で流れるボブ・ディランの印象的な四曲のナンバーが一役買っているのも見逃せない。 ありきたりなケイパー・ムーヴィーとして始動したドラマは、いつしかブラックな笑いを帯びた不条理劇としての様相を呈してくるのだ。一見、くたびれた、冴えない中年女性のようなヒロイン、ノオミ・パラスの冒頭とラストで見せる、得も言えぬエロティックな表情が忘れがたい。

20/11/2(月)

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