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恩田 泰子
映画記者(読売新聞)
アーニャは、きっと来る
20/11/27(金)
新宿ピカデリー
1942年のフランス、ナチスによるユダヤ人移送の場面から物語は始まる。映し出されるのは、ある父親が、まだ小さな娘アーニャを他人に委ねる姿。ホロコースト映画でいつか見た風景── と思いきや、その刹那、アーニャが全身にこめる力の強さに胸をつかまれる。そう、この映画は人のありようを丁寧に見せて、観客をぐいと引き込む。そして舞台はノア・シュナップ演じる羊飼いの少年が住むピレネー山麓の村へ。冒頭の父親は村外れの義母宅に身を潜め、方々から逃げ延びてくるユダヤ人の子供たちを救っている。アーニャを待ちながら。やがて少年が父親に手を貸すようになると、素朴な生活が大きな物語に変わっていく。起伏に富んだ土地で、羊の群れを守って生きる者たちの暮らし。監督のベン・クックソンは、細やかな人間描写をダイナミックに飛翔させる。その名前、覚えておかねば、だ。
20/11/25(水)