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三鷹市芸術文化センターで、演劇・落語・映画・狂言公演の企画運営に従事しています

森元 隆樹

(公財)三鷹市スポーツと文化財団 副主幹/演劇企画員

KERA CROSS『グッドバイ』

筆者が従事する三鷹市芸術文化センターの斜め前に『禅林寺』という寺があり、そこに太宰治は眠っている。昭和14年9月、太宰は、東京府北多摩郡三鷹村下連雀の家に転居し、昭和23年6月に三鷹市内を流れる玉川上水で入水自殺を遂げるまで、終生、三鷹に暮らした。その太宰の絶筆であり、未完に終わった小説、それが『グッド・バイ』である。 太宰治作品を今まであまりお読みになる機会が無かった方の中には、往々にして「暗い」というキーワードがインストールされていることが多いが、そのささやかな「上書き保存」のために、ぜひ『グッド・バイ』を読んでもらいたいと願う。 今から70年以上前、戦後まもなくの時代に書かれたとは思えぬほどの軽妙さで畳み掛けるユーモアのセンス、そして、令和の時代の若手作家が記したと告げられても何の違和感もないほどの、なめらかな筆致。さりとて、簡単でも安易でもない。難しいことを、そう感じさせずに読ませる腕こそが、太宰の凄いところだと私は思っている。手にしていただければわかる。読み始めるや否や、いつしか吸い込まれるようにページを捲り続け、「いねえよ、こんな奴」とか「キヌ子、想像もつかねえ」とか脳内で呟いてうちに、すっかり忘れていた2文字が目に飛び込んでくるのである。 (未完) そう、もう一度書くが、この小説は(未完)である。そして、これほどまでに先が読みたくてしかたのない(未完)もなかなか無い。「嘘だろ」と思うほど、太宰の筆のその先が知りたくて呆然としてしまう(未完)である。 その『グッド・バイ』がケラリーノ・サンドロヴィッチの手によって舞台化されたのが、KERA・MAP#006『グッドバイ』(2015年9月/世田谷パブリックシアター)である。 面白かった。抜群の切れ味とテンポで、見事に太宰作品を料理したケラリーノ・サンドロヴィッチ作品がそこにあり、かなりの長尺の作品でありながら、いささかも長さを感じなかった。 それどころか。 太宰の原作を読んだときのように。もっと、もっと観ていたくて仕方がなかった。 その『グッドバイ』が、<ケラリーノ・サンドロヴィッチの名作戯曲を、才気溢れる演出家たちが新たに創り上げるシリーズ「KERA CROSS」>の第2弾として、生瀬勝久演出で再演。数多くのケラリーノ・サンドロヴィッチ作品に出演している生瀬が、ケラ作品を演出するならぜひ『グッドバイ』でと惚れ込んでのことという。 あの日の興奮を胸に、生瀬演出のシナジーにも期待しつつ、客席で待ちたい。

20/1/4(土)

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