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一瞬がすべてを救う映画、だれも断罪しない映画を信じています

相田 冬二

ライター、ノベライザー

スパイの妻〈劇場版〉

黒沢清という監督は、ひとりの俳優のベストワークを生み出すことが度々ある魔術師だが、本作もまた、高橋一生という魔物の、究極のかたちかもしれない。 その男が、妻に見せていなかった顔。 妻は、それを知り、驚愕するが、それでも、彼への愛のために、すべてを投げ打つ覚悟を固める。 だが、妻が見出したその顔が、はたして真実の顔と言いきれるのかどうか。 あの夫には、複数の、万華鏡のような顔があるのではないか。 そんなとりとめのない幻を、高橋一生は見せる。 いま、自分が見ているものは、なんなのか。 そのことに、一切の確証がなくなるばかりか、あっという間に、すべては無くなってしまうかもしれない、という喪失への予感がみなぎる。 この、不安定さ、負の光。 彼の、何を考えているのかわからない、しかし、鋭く、寄せつけない、破格の説得力が、観客のまなざしを彼方に連れていく。 『スパイの妻』とは、誰のことか。 それは、わたしたちである。 銀幕を見つめることによって、高橋一生と心中するしかなくなる。 気がつけば、スパイの妻になっている。

20/10/13(火)

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