Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

映画史・映画芸術の視点で新作・上映特集・映画展をご紹介

岡田 秀則

1968年生まれ、国立映画アーカイブ主任研究員

東京干潟

「人に歴史あり」とはよく言うが、そのことを偶然の出会いから探り当ててしまった稀有なドキュメンタリーだ。映画は、羽田に離着陸する飛行機を背景に、多摩川河口の干潟に腰まで浸かり、素手でしじみ採りをする老人の姿から始まる。彼はそのしじみを仲買人に売ることで生計を立てている。もう11年も河川敷のホームレス生活だが、高度成長からバブル期まで建設現場で鍛えてきた腕は太く、85歳の身体とは思えない。 しかも、自分が食うのも大変なのに、猫にも生きる権利はある、と20匹もの捨て猫を世話している。飼い猫は決して野良にはなれないから、彼の買ってくるキャットフードが命の拠りどころだ。猫たちの顔のアップが繰り返し出てくるが、例外なく、生きることの厳しさと緊張を感じさせる。 川の生き物とその生息環境を追った『流(ながれ)』でまず注目された村上浩康監督だが、この『東京干潟』は、同じ多摩川河口の蟹たちの驚くべき生態を捉えた『蟹の惑星』と合わせての公開となった。 人知れず都会の辺境に潜む「老人・猫・しじみ」が、人間の世を大きく照らし出している。無視すべからぬ一本である。

19/7/21(日)

アプリで読む