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水先案内人のおすすめ

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一瞬がすべてを救う映画、だれも断罪しない映画を信じています

相田 冬二

ライター、ノベライザー

おらおらでひとりいぐも

歳をとることの深刻さと豊かさを、透明なまなざしから、等価のものとして描いたファンタジーと言えるかもしれない。 ファンタジーを絵空事と解釈するべきではなく、生きることをめぐる根源的な痛みを緩和する、点滴のようなものだと捉えれば、本作がはらむ独特の浮遊感の秘密も掴めるのではないだろうか。 たとえば、過酷な状況から逃避している最中に、ぽっかり生まれる、シェルターとしての人為的な夢。 それが、『おらでおらでひとりいぐも』なのである。 死後の世界を、こんなふうに表現する映画は、あったかもしれない。 だが、これは、起きながら見る夢であり、人生の白日夢、でもある。 わらわらと湧き出る無数の自分たちとの対話を、その夢の残像をキュートに銀幕に定着させる大盤振る舞い。 最終的に、人が向き合うべき相手は、自分自身でしかない。 無慈悲と言えばあまりに無慈悲、当たり前と言えば至極当たり前でしかない、真実と現実をとけあわせ、笑うわけでも、泣くわけでもない、ほのかに生温かい、ありそうでなかった“次元”を出現させている。 それにつけても、田中裕子の独壇場。 昨年公開の『ひとよ』もそうだったが、老人は呆けているのではなく、徹底的に己と対峙することによって、むしろ覚醒し、新しい“進化”を迎えているのではないかと感じさせる彼女の芝居は、演じる役がそうだからなのか、それとも、この女優自身が、いまそのような“状態”なのか、判別する手立てすらないあたりも、確かなファンタジーなのである。

20/11/4(水)

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