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水先案内人のおすすめ

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邦画も洋画もミーハーに、心理を探る作品が好み

伊藤 さとり

俳優や監督との対談番組を多数、映画パーソナリティ

娘は戦場で生まれた

この映画がカンヌ国際映画祭をはじめ、多くの映画賞を受賞したことはとても意味深いことであります。 どの戦争映画よりも、観ているこちら側が、まるでそこにいるような感情を持ち、強く強く、この暴力や爆撃が無くなることを願うのだから。 ワアド・アル・カデブ監督は、戦地シリアのアレッポで、ジャーナリストを目指し、デモ運動へ参加し、運命の人との出会い、妊娠を経て、母になった感情も全て記録していました。 途中、息子を失った女性が、彼女のカメラに気づき「すべてを撮って!」と叫ぶ姿が映し出されます。 ワアド監督は、冒頭のナレーションで、「娘、サマに伝えるために撮り続ける」と言っているんですが、彼女は、この悲劇を世界に伝えたかったのだろうし、子供をもうけてからは、いつ死ぬか分からない自分たちの姿を娘に残したかったのだろうし、母になり、同じ母親たちや子供たちの辛すぎる状況を誰かに知って欲しくて、救って欲しくて、撮り続けたのだろうと、観客は気づかされるのです。 それは、この戦いの勝敗よりも、誰か助けて欲しい、というSOSを込めて、戦火の街でYouTubeにアップしている映像が物語っています。 ジャーナリストになりたかった彼女が、使命に燃えてカメラを持ち、爆撃音にも泣かない娘に悲しみを感じ、亡くなった弟を抱えて病院へやって来た少年へカメラを向け、重体の妊婦を救うべく、奮闘する医療チームにカメラを向け、命の尊さを世界へ伝えたいと願っている画なのです。 このすべてが力強いメッセージになって、多くの人の心に届いて欲しいという思いと共に、賞賛され、映画として世界公開を迎えた今、観た人たちが今度は伝えていくことこそ、本当の意味での“映画の力”がなせる技と言えるんじゃないでしょうか。

20/2/24(月)

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