生まれつき耳の聞こえない映画監督、今村彩子とアスペルガー症候群の友人との日常を追いかけたドキュメンタリー。マイノリティへの包摂が大事だとマジョリティは言うが、一口にマイノリティと言ってもその実情は個々において異なる。誰だってわかりあうことは難しい。監督は自分を少数派の人間だと思っていたが、アスペルガーの友人を見て、多数派の部分もあるのだと気づいたと語る。 本作は、安易な少数と少数の連帯を称揚しない。むしろ、ある部分では少数でも別の部分では多数派となり、抑圧する側に回ってしまうのではないか、という疑問を投げかける。 多様性の時代という、美しいスローガンで誤魔化されがちな現実のリアルを見事に捉えた素晴らしい作品だ。

20/9/19(土)