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邦画も洋画もミーハーに、心理を探る作品が好み
伊藤 さとり
俳優や監督との対談番組を多数、映画パーソナリティ
偽りの隣人 ある諜報員の告白
21/9/17(金)
シネマート新宿
韓国映画はドラマティックに感情を揺さぶらせてくれる。演技の授業でも“感情の起伏を学ぶ”とある韓国女優の方が教えてくれた。 例えそれが実話であり政治を題材にした映画であろうとも、『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』のように『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』や『1987、ある闘いの真実』のように、人と人との絆を大切にしながら胸を大きく波打たせる感動を与えるエンタテインメントとして、海を越えた日本でも大ヒットを記録し、間違いなく人の心に届いていくのだから。 『偽りの隣人 ある諜報員の告白』はあくまでもフィクションとイン・ファンギョン監督は言っているけれど、時代設定が1985年であること、民主主義を訴える学生運動が盛んなこと、大統領選など、実際の韓国の歴史をベースにしている題材を見やすく表現すべく、コミカルな演技で笑いまで生み出していく。 しかも観客に親近感を持たれるように、真面目な諜報員が国家を揺るがす存在だと思っていた政治家の隣に住むという設定にし、盗聴器から聞こえる政治家の声から自分の信念に疑問を持ち始めるというプロット作りはお見事。 だからこそ歴史を知らずとも他国の政治問題だとも思わず、しっかりと自分で調べ、想像力を働かせることが今の社会で大事だと気付かされる。 一体、正しさとはなんなのか? 様々な登場人物の視点に観客はスイッチしながら、きっと涙が止められなくなることでしょう。そしてやっぱり、オ・ダルスという俳優の演技に泣かされるのですよ。
21/8/26(木)