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生きのいい日本映画を中心に、大人向け外国映画も

平辻 哲也

1968年生まれ 映画ジャーナリスト

友達やめた。

生まれつき耳が聞こえない女性監督、今村彩子が、またすごい映画を撮った。引っ込み思案だった自分自身を乗り越えるため、沖縄から北海道への自転車旅に出る前作『START LINE』(16年)から4年。新作で描くのは、ろう者の今村監督とアスペルガー症候群のまあちゃんの一風変わった友情ドキュメンタリーだ。 今村監督が17年、『START LINE』の上映会で出会った個性的な女性まあちゃん。手話ができることから、すぐに仲良くなる。まあちゃんはコミュニケーションが苦手だったり、特定のものに強い執着を見せる「アスペルガー症候群」。でも、お互いマイノリティー同士だから、絶対分かりあえると思っていた。 しかし、まあちゃんは相変わらずのマイペース。食事の時は「いただきます」も言わない。そんな細かいところがだんだん気になってしまう。ある時、映画祭でのまあちゃんの態度をめぐって、大げんか。今村監督は思った。「友達やめた。」と。 その思いが、この映画の出発点。どうしたら、まあちゃんと本当の友達になれるのか。そこで、今村監督はまあちゃんと自分を被写体に映画を撮ることに決めた。観客は18年2月から1年半に及ぶ、2人の友情の記録を覗き見させてもらうことになる。普段は本音を言えない今村監督は交換日記を提案し、互いに本音をぶつけ合い、台湾旅行にも行く……。 「どうしたら、人と人は分かり合えるのか」というコミュニケーションの問題は普遍的なテーマ。そこにはマイノリティーもマジョリティーも関係ない。お互いを知ろうとし、理解し、時に許すこと。ビリー・ワイルダー監督の名作『お熱いのがお好き』でも、「Nobody's perfect(完璧な人はいない)」という名せりふもある。 「映画を見て、まあちゃんを嫌いにならないで欲しいんです。本人には絶対に言えないけど、まあちゃんにはいいところがいっぱいある。自分自身がイヤだなと思う部分も受け止めてくれる器の大きい人。自分は思い込みが激しくて、障害者だからできない、と自信を失っていたこともあったんですが、耳が聞こえる人でもできないことはあるんだ、とも気づかせてくれたし、たくさんの自信もつけさせてくれた」と今村監督。 インパクトのある題名だが、これはマイナスではなく、プラスの言葉。一生懸命友情を育む姿にほっこりし、ちょっぴり涙する。言葉や行動で理解し合えなければ、映画を撮ればいい。今村監督は映画のチカラを信じ、人間的にも成長を遂げた。現在は東日本大震災を題材にした映画を製作中だそうで、「今後はマジョリティーの男性を撮ってみたい。そこには絶対、私の思い込みがあるはずだから」とも語る。 コロナ禍、人同士が関係性が希薄になりがちな今こそ、すべての人に観て欲しい作品。発達障害などを抱えているため、映画館で観るのは難しいという人のためには、ネット配信もあるので、ぜひ。

20/9/18(金)

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