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日本で(多分)一番多くの映画を観る(年間800本!=新作、旧作も入れると…)映画評論家
野村 正昭
映画評論家
羊飼いと風船
21/1/22(金)
シネスイッチ銀座
見渡す限りの大草原が広がる神秘の地、チベット。今や、映画館とコンビニがなければ生きていけない身体になっている筆者にとっては、観光で行くのならともかく、生活するとなると三日と暮らせないだろうが、束の間とはいえ、その場所を疑似体験できるのは、まさしく映画の恩恵といえるだろう。 牧畜をしながら暮らす、祖父、若夫婦、息子たちの三世代の家族。大自然の中で受け継がれてきた伝統や価値観は近代化の波の中で、少しずつ変化していくが、文明に汚染されている筆者から見れば、それでも永遠に手の届かないユートピアに見える。厳しい土地に生きる人々の日常的なエピソードの数々は、人間の原初の感情を思い出させ、揺さぶられるが、そうしたことを含め、敬虔な気持ちにならざるをえない。日本初登場、チベット映画の先駆者ペマ・ツェテン監督の意欲作だ。
21/1/20(水)