あらかじめ題名でも示されているが、“戦争映画”なのにこれほどぼんやりした作品は観たことがない。毎日朝の9時から夕方の5時まで、1本の川を挟んで規則正しく隣町と戦争を繰り広げている小さな町の摩訶不思議な日常。ところがふたつの町がなぜ戦争しているのか、川の向こうからどんな脅威が迫っているのか、観客はおろか戦っている兵士すら分からないのだ！ そして几帳面な反復の演出と俳優たちのポーカーフェイスの演技がクスクス笑いを誘うこの映画、ぼんやり眺めているとだんだんコワくなってくる。誰もが上からの命令に盲従し、周りに同調しているシュールな世界観が、いつの間にか不気味な現実味を帯びてきて、ついには破滅的な事態が暴発する。川岸に響くトランペットの音色に胸を締めつけられ、池田暁監督の並外れた創造性にド肝を抜かれる不条理な風刺寓話。こんな才能が日本にいたとは。

21/3/28(日)