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古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

特別展「国立ベルリン・エジプト博物館所蔵 古代エジプト展 天地創造の神話」

古代エジプトには世界創造神話が複数あったと初めて知った。そのなかのひとつ、混沌である「原初の海ヌン」から出現した創造神アトゥムが、世界を構成する8柱の神々を次々と生み出す物語に焦点を当てた展示構成となっている。なかでも弟セト神によって殺されたオシリス神と妹で妻のイシス神の物語が興味深い。イシスはバラバラにされたオシリスの体を探し集めたが性器だけ見つからない。仕方なく性器のないままオシリスを復活させ、オシリスの子供ホルスを授かる。これは聖母マリアの処女懐胎を思わせる性交なしの懐胎神話。幼子イエスを抱く聖母子像の原型はホルスに乳を与えるイシス像という説もあり、エジプト文化がキリスト教文化に与えた影響の大きさと奥深さに思いを馳せる。 エジプトの神々は、山犬や猫、雌ライオン、隼、朱鷺など、動物の頭部をもった姿で表されることが多い。智恵の神トトを表す巨大なヒヒが背後に寄り添うファラオ像など、多様な動物たちの姿も楽しい。またネフェルトイティ王妃と思われる女性頭部の穏やかな表情や、夫アクエンアテン王の相貌をリアルに表現したレリーフなど人物の造形も見どころが多い。 ミイラを収めた棺や臓器を収めたカノポス容器、死者が冥界での困難を乗り越えるための呪文をまとめた『死者の書』などに触れながら、最後のセクションでは、世界は滅び消滅してしまうが、創造神アトゥムと再生の神オシリスの力によって原初の混沌の海「ヌン」から改めて世界が再び創造されるという、壮大なスケールで循環する創造物語で締めくくられる。 各セクションに設置されている丁寧な解説アニメーションを参照しながら古代エジプト文化の理解を深めつつ、高さ4㎝にも満たない極小の護符像もあるので、ぜひ単眼鏡持参を。

20/12/12(土)

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