インドネシア、レンバタ島ラマレラ村は、人口1500人ほどの村だが、火山岩がごろごろするだけの浜辺には、作物ができず、生きるための糧を海に求めざるをえない。銛（モリ）一本で巨大なマッコウクジラを突く勇壮な鯨漁が、貧しい村の命を支えている。年間10頭獲れれば、村人全員が暮らしていけるが、漁期の4カ月間に1頭も獲れないことがある。ラマレラの民との30年に及ぶ交流で、深い信頼関係を築く写真家であり、映画監督の石川梵が、2017年から19年までの3年間をかけて、現地の人々に密着したのが、このドキュメンタリー『くじらびと』だ。手作りの舟から銛を手に鯨にとびかかる壮絶な漁は、文字通り命がけの激闘で、息を呑む。グローバリズムと反捕鯨の世界的な圧力の中で、地域文化を守る大事さ、そして大自然と共に生きる共生の形を問いかける。臨場感溢れる一作だ。

21/8/28(土)