『ファーゴ』『スリー・ビルボード』でアカデミー賞主演女優賞を二回受賞したフランシス・マクドーマンドが主演であり、プロデューサーでもあるというだけで、期待感は否が応でも高まる。そして期待通りの圧巻の作品。 若き1970年代だったら、『イージー・ライダー』のような全員が若者でアウトローという描かれ方がしただろう。しかし本作に出てくるのは大半が高齢者であり、格差が進むアメリカの被害者たちである。しかし中国系の女性監督であるクロエ・ジャオはこう語っている。「アメリカの資本主義はひどいと世に問うために、放浪するノマドを題材にしたわけではありません。わたしの目的はこのノマドの世界に身を投じて、ユニークな移動し続ける国家というアメリカの姿をつぶさに追うことでした」。 けっして一方的な弱者を描く作品でもなければ、政治的な強いメッセージでもない。ただリアルにアメリカ人の苦境とそこで培われてるたくましさを描き出している。本物のノマドたちとプロの俳優たちが混在しているドキュメンタリータッチも魅力で、彼らノマドの風貌にもたまらなく惹かれる。

21/3/4(木)