テレビ東京『バイプレーヤーズ』シリーズなどで知られる松居大悟監督がジム・ジャームッシュ監督の『ナイト・オン・ザ・プラネット』(1992年) に着想を得たオリジナルストーリー。そのアイデアが卓越している。 『ナイト・オン・ザ・プラネット』はロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキの五つ都市で同時刻に走るタクシーで起こった物語をつづったオムニバスだが、本作では、同じ時間の違う都市ではなく、「7月26日」という同じ日の違う年が描かれる。 主人公は、この日が誕生日の照明スタッフ（池松壮亮）とタクシー運転手（伊藤沙莉）。その二人が別れた後の2021年の物語から始まり、6年の時を巻き戻す。コロナ禍での日常から、以前の平凡な日々、同じ映画を観て、愛し合った日、けんかした日、そして、出会ったあの日……。 時間の巻き戻しは、その喪失の大きさとともに、観客にいろんな感情を呼び起こす。まるで、記憶を呼び覚ます装置のようだ。人との出会いを今以上に大切にしたい、といまさらながら思う。1、2月の邦画ベスト。映画賞の候補にも挙がる傑作。

22/2/5(土)