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水先案内人のおすすめ

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文学、美術、音楽など、映画とさまざまな構成要素に注目

高崎 俊夫

1954年生まれ フリー編集者、映画評論家

ドリームランド

アメリカ映画史には、フリッツ・ラングの『暗黒街の弾痕』(37)を嚆矢に、ジョセフ・H・ルイスの『拳銃魔』(49)を経て『俺たちに明日はない』(67)へと流れる、悲愴なカップルが悪に手を染めるケイパー・ムーヴィーの系譜がある。大恐慌の1930年代を舞台にした『ドリームランド』もそんな神話的なジャンルに属する一本だ。 冒頭から、少女フィービー(ダービー・キャンプ)のナレーションによって語られるのは、不幸な幼少期を送った腹違いの兄ユージン(フィン・コール)と、銀行強盗の片割れであるアリソン・ウェルズ(マーゴット・ロビー)の破滅の予感に満ちた道行だが、つねに彼女の視点で物語が紡がれるために、映画全体が淡く、夢想的で、どこか酷薄なお伽噺のような肌触りをもっている。くすんだ、沈静なタッチで統一された画面は、ときに、大恐慌時代において疲弊した南部農村のプア・ホワイトの家族をとらえた写真家ウォーカー・エヴァンスの一連の名作を連想させる。穏やかな草原の景観が、ふいに荒ぶる幻想画に変貌してしまう瞬間もあり、その意味では、この映画のもっとも深い霊感源となっているのは、テレンス・マリックの『地獄の逃避行』(73)かもしれない。 ヒロインを演じたマーゴット・ロビーは、邪悪なファム・ファタールというよりも、つねに怯え、世界と折り合えないユージンを、時には挑発し、慰撫し、抱きとめるミューズのような両義性を持つ魅力的な存在で、自らこんな大胆不敵な作品をプロデュースするとは、まことに天晴れである。

21/3/14(日)

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