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古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

目黒区美術館コレクション展 LIFE ― コロナ禍を生きる私たちの命と暮らし

チラシやポスターに使われているのは、パンドラが甕の蓋を開けた瞬間を描いた版画家・小作青史の作品だ。画面の半分を黒々と覆うおびただしい禍は、世界中に広がる新型コロナウィルスの脅威を映し出すかのようだ。戦争や死の恐怖に焦点を当てた第1章「恐怖と不安、そして悲しみ」、さりげない日常風景を取り上げる第2章「愛しき日々」、家族や友人との親密な生活場面を集めた第3章「それでも私たちは今を生きる」、第4章「再び抱き合える日に」という4つのセクションで構成されている。 目黒区美術館の所蔵品展だが、筆者には初見の作品が多く、いろいろな発見があった。例えば、ステンレス彫刻で知られる飯田善國の戦争を主題とする油彩画や、デザイナー秋岡芳夫のほのぼのとした味わいの童画、詩とともに鑑賞できる深澤幸雄(宮沢賢治の『春と修羅』)と木原康行(中村真一郎の詩)の銅版画による詩画集などなど。 最後のセクションの藤田嗣治の接吻をテーマとする水彩画と木製の玩具が可愛らしい。特に男女の頭部を手で動かす玩具を見ると、嬉々として制作に勤しむ藤田の姿が目に浮かんでくるようだ。そして冒頭で触れた小作青史の「パンドラ」は、このセクションの一番最後で出会うことになる。夥しい禍が世界に飛び出してしまった後、甕の底に「希望」が残っていたというエピソードから、あえて最後に展示したのだという。 さらに「マスクに思いをのせて、つながろう」プロジェクト・コーナーも興味深い。観客がコロナ禍の日々の思いを綴った紙にマスクの紐がつけられ、ボードに並ぶ。担当学芸員のコメントも添えられていて、思わずじっくり読んでしまった。 良質なコレクションがあるからこそ、コロナ禍というアクチュアルな状況にタイムリーに対応できるのだと改めて実感。こじんまりとした規模だが、味わい深い展覧会だ。

20/11/10(火)

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