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植草 信和

1949年生まれ フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

DAU. 退行

“戦争を知らない戦無派世代”にとって、1991 (平成3) 年のソヴィエト社会主義共和国連邦(ソ連)の崩壊は、超々大事件だった。世界初の社会主義国家であり、アメリカと覇を競っていた超大国が突然消滅するなど、にわかには信じられなかった。 その衝撃から今年で30年、ドキュメンタリー映画『国葬』、劇映画『スターリンの葬送狂騒曲』『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』、小説『あの本は読まれているか』などで、社会主義国家ソ連の体制腐敗を知れば知るほど、崩壊は必然の歴史的帰結だったと今は思える。 前置きが長くなったが、本作『DAU. 退行』は前作『DAU. ナターシャ』で描かれたソ連全体主義社会のその後の世界を描いた〈DAU〉プロジェクトの劇場映画第二弾。ダンテの長編叙事詩『神曲』の〈地獄篇〉を模して9章で構成、前代未聞の手法で国家崩壊にいたる経緯を赤裸々に描き出した上映時間6時間9分の超巨編異色作だ。 〈DAU〉プロジェクトとは、EU映画史上最大の1万2千平米もの秘密研究所のセットを作り、オーディション人数約40万人、主要キャスト400人、エキストラ1万人、撮影期間40ヶ月、など“映画史上最も狂った映画撮影”だったことは、前作紹介の時にも書いた。 『DAU. ナターシャ』が描き出したスターリン体制下の1952年から10年以上が経過した1966年が本作の舞台。キューバ危機の後、スターリンが築き上げた全体主義社会の理想は崩れはじめている。 前作ではレストランで留まっていたカメラが本作では研究所奥深くに入り込み、複雑な建造物、人体実験などを通して腐敗の構造をダイナミックに映し出す。共産主義の理想が暴力とSEXに絡めとられて国家崩壊へと蛇行していく様が、実に不気味だ。 国はどのように滅びるのか。米国と覇を競う一党独裁の隣国は大丈夫なのだろうか。それよりも指導者なき我が国は……。もはや誰もが他人事とは言えないテーマを、観る者に厳しく問いかける問題作だ。

21/8/17(火)

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