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水先案内人のおすすめ

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生きのいい日本映画を中心に、大人向け外国映画も

平辻 哲也

1968年生まれ 映画ジャーナリスト

くじらびと

国際的に火種になっている捕鯨問題。鯨にまつわるドキュメンタリーは、いろいろと考えさせられる。気になる人は『ザ・コーブ』と『おくじらさま ふたつの正義の物語』の両方を観て欲しいが、本作はクジラ漁の是非ではなく、人間が自然と共存し、生きるとは何かを問いかける。 モリ一本でマッコウクジラ漁を続けるインドネシアの小さな島の人々の物語。ラマレラ村は人口1500人。スマホもない世界で、物々交換によって生活している。くじらは獲物、同時に命を奪う敵でも、感謝の対象でもある。モリ打ち漁師は村の命運を握る救世主、ヒーローでもあり、少年にとっては憧れの存在だ。おそらく100年前の日本でも、こんな風景はあったのかもしれない。 ドローンやGoProなどを駆使してダイナミックに描いたクジラ漁が見どころだが、村人たちの表情が素晴らしい。3年間に渡っての撮影ということで、撮影者と被写体の信頼関係がしっかりできているのだろう。飾らない人々の表情を生々しく捉えている。豊漁への歓喜、突然、コミュニティに襲った悲劇、そして、再生への歩みを丹念に紡ぐ。 流行りのSDGsを概念ではなく、昔からの伝統として受け継ぐ人々の姿には、胸を揺さぶられる。こんな生き方は素晴らしいなと思いつつも、利便性を享受してしまった私たちはラマレラ村の人たちのようには生きられない。私たちが置いてきてしまったものがたくさん写っている。

21/9/2(木)

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