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水先案内人のおすすめ

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伝説のSF映画評論家が選ぶ、現代のSF、ホラー映画など

中子 真治

1953年生まれ SF映画評論家、飛騨高山留之助商店店主

アップグレード

ムカデの足のように何本ものリード線が伸びるSTEMという名のAIチップを、全身麻痺の患者の脊髄に移植するだけで、超人に生まれ変わらせることが出来る、そんな夢の先端医療が現実のものとなった近未来のお話だ。 謎の集団に妻を殺され、自分も深手を負って寝たきりになってしまったビンテージカーの修理工が、STEMで超人化し、文字通り復讐に立ち上がる。とはいっても、このSTEMには一種の人格があり、主人公にだけ聞こえるHAL9000のような穏やかな口調で、目的達成のためのかなり物騒な提案を持ちかける。そんな別人格との体内同居に戸惑いながらも、男は悪玉たちを一人、また一人と血祭りに上げていくのだ。 敵の口を割ろうとするとき、自分(頭部)は顔を背け、STEM(胴体)が拷問役を買って出てくれたり、女房を殺された喪失感をいつまでも引きずっている、パッとしない泣きっ面の主人公と、喧嘩無双のSTEMとの共同戦線が面白い。激しくゴアなカット、キレキレの倍速アクション、それらを丁寧にまとめ上げた映像にも唸らされる。映画の終盤で散見できる自撮り棒を使ったような、主人公を正面から捉えたちょっとしたカットにも、絵作りの拘りを感じる。 低予算だからか、意図してか、デジタル汚染される前の1980年代を思い起こさせるハンドメイドでプラクティカルなSFXが、かえって新鮮でもある。走り出したばかりの頃のデヴィッド・クローネンバーグ、ジョン・カーペンター、ジェームズ・キャメロン、ポール・バーホーベンたちの映画にも似た熱量と無謀さを漲らせ、リー・ワネル監督のファンになってしまった。95分という尺も申し分ない。

19/10/7(月)

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