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水先案内人のおすすめ

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文学、美術、音楽など、映画とさまざまな構成要素に注目

高崎 俊夫

1954年生まれ フリー編集者、映画評論家

草の響き

シネマアイリス企画・プロデュースによる佐藤泰志の小説の映画化は、これまで、『海炭市叙景』『そこのみにて光り輝く』『オーバー・フェンス』『きみの鳥は歌える』と、どれも現代日本映画の最高水準を示す出来栄えだった。どこか原作同様に、アメリカン・ニューシネマの残滓を引きずっているような独特の停滞感、鬱屈感が、個々の作品に共通する魅力でもあった。 佐藤泰志の初期短篇をベースにして、斎藤久志がメガホンを執った五作目にあたる『草の響き』は、スケボーで疾走する青年を長回しで延々ととらえた冒頭から、軽やかな疾走感で観る者をある高揚感へと誘う。この映画は、スケボーの滑走感に身をゆだねる青年と、心に変調をきたし、妻と故郷函館に戻ってきた和雄(東出昌大)が治療の一環として<走る>ことに専心するさまを交錯させながら、自らの肉体を通して、<生>の危うさ、不確かさを必死にまさぐっているように見える。清々しい函館の大気に染まりながらも、若者たちは無為な日常に耐えている。とりわけ、一見、ポーカーフェイスを装いつつも、崩壊の予兆に怯え、なにかに憑りつかれたかのように、ひたすら走り続ける東出昌大の繊細な、痛ましさにも似た佇まいが強く印象に残る。

21/10/4(月)

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