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水先案内人のおすすめ

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生きのいい日本映画を中心に、大人向け外国映画も

平辻 哲也

1968年生まれ 映画ジャーナリスト

猿楽町で会いましょう

「あの映画、とてもよかったけど、詳しい話を覚えていない」ってことはありませんか。私はあります。仕事上、かなりの数を観ると、題名と内容が結びつかなかったり、細部を取り違えていたり……(年のせいだ、と言われれば、それまでですが)。 本作は変わりゆく渋谷を舞台に、駆け出しのフォトグラファー、小山田(金子大地)と純朴そうに見えて嘘だらけのヒロイン、ユカ(石川瑠華)の夢と欲望が交錯していく青春ラブストーリー。2019年の東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門で観た。もう2年近く前だが、鮮明に印象に残っている。 白状すると、冒頭20分は少し退屈だった。しかし、途中から、俄然面白くなる。観終わったら、これは青春映画の傑作じゃないか、と。そして、2020年のくまもと復興映画祭で観直したら、1回目よりもさらに面白かった。それは、ラストを知っているからこそ、退屈と思えた序盤は面白く見えたのだ。私のように、“ただのラブストーリー”だと思って、観始めると、いい意味で裏切られる。 しかし、その面白さを詳しく書くと、完全にネタバレしてしまう。実にもどかしい作品なのだ。もちろん、以降もネタバレは書かない。 監督は『私立探偵 濱マイク』シリーズの林海象氏に師事し、数多くの大手CMを手掛けてきた1979年生まれの児山隆。これがデビュー作になる。未完成映画の予告編を作り、その完成度を競う「第3回未完成映画予告編大賞」でグランプリを受賞し、本作の製作にこぎつけた。 当初公開は昨年6月だったが、コロナ禍を受けて、1年延期となった。コロナ禍でこういう境遇の作品は数多くあるが、あえて1年延ばしたというのは、「面白い作品だから、たくさんの人に観て欲しい」という関係者の自信の現れだろう。1年延ばしても、コロナ禍が収まっていないのは残念だが、作品を待っていた人も多いはず。感染対策を万全にして、映画館でこの傑作と会ってください。 すごい褒めたつもりなので、最後に不満も少し。それは題名だ。「猿楽町で会いましょう」と言われても、地方在住の方はピンとこないだろう。猿楽町は渋谷区にある町名で、代官山駅が最寄り駅の住宅地。住んでみたいと思える、いい町で、監督の愛着も分かるのだが、もう少し内容が分かるようなものにはできなかったのかな。

21/5/30(日)

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