Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

歌舞伎とか文楽とか…伝統芸能ってカッコいい!

五十川 晶子

フリー編集者、ライター

歌舞伎座五月大歌舞伎

第二部 『仮名手本忠臣蔵』 第二部の『仮名手本忠臣蔵』では、今月は浄瑠璃「道行旅路の花聟」、六段目「与市兵衛内勘平腹切の場」が上演される。早野勘平は、ひょっとしたら歌舞伎を彩る立役の中でも最もドラマチックな主人公ではないだろうか。 塩冶家に仕えていた勘平は、恋仲となった腰元のお軽とともに殿の一大事に居合わせず、浪々の身となり妻の実家へ身を寄せている。涼やかな近習の姿から猟師へと身をやつし、運命の徒らか、雨の暗闇の山崎街道で、浪人斧定九郎をイノシシと間違えて撃ってしまう。そして懐にあった財布を盗んでしまう。討入りに参加するための金を工面したいと思っていたからだった。この定九郎、勘平に撃たれる直前に、勘平の舅・与市兵衛を殺し、金五十両の入った縞の財布を奪ったばかりだった。 元々その金は、勘平のためにお軽と与市兵衛ら親子がひそかに算段し、お軽の身を売る約束をして、祇園の一文字屋で得た前金だった。与市兵衛がその金を持ち帰る途中の山崎街道で、定九郎という浪人に殺されたのだ。本来なら勘平は知らずのうちに舅の仇を打っていたというところだが、運命はここから逆回りをし始め、勘平は舅殺しの罪まで着せられることになる。 六段目はここから始まる。与市兵衛内には主の与市兵衛以外の人物が揃う。勘平、祇園へ売られ夫との別れに身を切られるような思いのお軽、お軽を引き取りに来た一文字屋、そしてお軽の母おかや。金を手に入れ、討入がこれでかなう、お軽を身売りさせる必要なんてない……と思っていた勘平だが、次第に舅殺しは自分では?と思い始める。 お軽が連れていかれた後に、与市兵衛の遺骸が運び込まれ、おかやは勘平に不審を抱き責めたてる。そこへまた塩冶家の元家臣・二人侍と呼ばれる千崎弥五郎と不破数右衛門がやってくるが、討入り参加はかなわなかった。万事窮す。勘平は大小の刀の刀身に顔をちらりと映し、髪を整える。そして…… 数ある演目の中でも人気の『忠臣蔵』。その中でも塩冶判官と並ぶ悲劇のヒーロー早野勘平。芸談もたくさん残されている。おかやといえば「歌舞伎ふけ女方」の分野で人間国宝となった三代目尾上多賀之丞。六代目尾上菊五郎など勘平をつとめる名優たちが頼りにしたというこの俳優が、美男で有名な十五代目市村羽左衛門の勘平に楽屋へ「どのようにつとめましょうか」と挨拶に行ったという。羽左衛門は「どうでも好きにやってくれ。どうせ客は俺しか見ねえから」という有名なエピソードが。なんともあっぱれ。 そして今月、当代の尾上菊五郎がつとめる極め付けの勘平、五代目菊五郎が形作り、六代目菊五郎が洗いあげ、そして当代菊五郎が洗練に洗練を重ねた江戸の音羽屋の勘平だ。この一幕にとことん浸りたい。

21/4/24(土)

アプリで読む