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古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

イサム・ノグチ 発見の道

「自然石と向き合っていると、石が話をはじめるのですよ。その声が聞こえたら、ちょっとだけ手助けしてあげるんです」。 本展のカタログに収められている、建築家の磯崎新にイサム・ノグチが語ったという言葉だが、イサム作品の鑑賞体験が集約された言葉だと実感する展示だった。 まず地下の最初の展示室。大小さまざまなおびただしい数の丸い「あかり」(岐阜提灯に触発されて制作された照明器具&光の彫刻)を背景に、花崗岩彫刻「黒い太陽」が出迎えてくれる。石彫や金属彫刻はどれも360度からの鑑賞が可能で、「どこからこういう形の発想が生まれるのだろう?」と思いつつ、やや抑え気味の空間照明の効果もあって、イサムの世界に引き込まれていくようだ。 そして金属彫刻を中心とする1階の第2展示室にも、対角線上に向き合うコーナー2カ所に展示された複数の「あかり」の柔らかい光が浮かびあがり、ユニークな形の金属彫刻の中で鮮やかな赤の「プレイスカルプチュア」が一際目を惹く。 さらに2階の第3展示室。ひとつの石の塊がこれほどさまざまな表情を見せてくれるとは! 磨きによる艶やかな面、割られた石の肌理が残された面、ノミが当てられた凹凸に富む丸みを帯びた面......。石材によってはキラキラと輝いていたり、黒く沈み込むような重さを感じさせたりと、見ているうちに触感を刺激され、思わず触りたくなってしまう。   これまでもイサム作品には触れてきていたけれど、このように改めて一点一点の作品とじっくり向き合うのは初めてかもしれない。抽象的な形態なのに見ていてまったく飽きない。飽きるどころか、360度ぐるぐると角度を変えて見ると、また別の表情が見えてきたりする。イサムと自然との対話に耳を澄ます静謐な時間は、掛け替えのない体験となるだろう。やはり心の栄養は必要だと改めて。

21/6/3(木)

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