Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

話題作、アート系作品を中心に

恩田 泰子

映画記者(読売新聞)

夢のアンデス

そびえ立つアンデス山脈。険しい山を登り、谷底をのぞいた時、何が見えるのか。チリ・サンティアゴ生まれのドキュメンタリスト、パトリシオ・グスマン監督は、この十年来、砂漠(『光のノスタルジア』)、海(『真珠のボタン』)と、故国の自然の中に沈殿した「記憶」と「現在」を生きる人々を結ぶ映画を撮ってきた。本作では巨大な山脈。「三部作」の最終章という位置づけで、自らの記憶をも溶け合わせて、絶望と希望に対峙する。 チリでは1973年の軍事クーデターにより、アジェンデ社会主義政権が覆され、以後18年間、ピノチェトが権力を握った。左派は弾圧され、3000人を超える市民が虐殺された。当時の政治的緊迫を撮影・記録していたグスマンは、チリを離れて巨編『チリの闘い』を完成させ、その後もずっと映画を通して故国の状況を凝視し続けてきた。 山脈は、見果てぬ夢か、とてつもない壁か。本作は、風景と証言を組み合わせた思索的なシネマエッセイといった趣きだが、パブロ・サラスという人物の登場によって、ある種の熱を帯びる。彼は、グスマンがチリを離れた後、民衆の抵抗や国家の暴力行為を記録してきた映像作家。すぐ過去になる現在をつかまえて、なかったことには決してさせない。サラスの仕事場に積み上がった膨大な記録が、絶望的状況の中で隆起した美しき山のように見えてくる。

21/10/5(火)

アプリで読む