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水先案内人のおすすめ

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話題作、アート系作品を中心に

恩田 泰子

映画記者(読売新聞)

テーラー 人生の仕立て屋

なんともチャーミングなギリシャ発の一本。家業の仕立て屋が傾き、起死回生をはかる50歳の独身男の物語。父親とふたり、高級スーツ一筋でやってきたが、時代の波にのまれて苦境に陥る。切実な状況だが、これが初長編の新鋭、ソニア・リザ・ケンタ-マン監督は、ひとりの男の転機の物語としてユニークな形で料理している。 優秀な仕立て屋だが、それ以外のことはまるで不器用な寡黙な主人公。商売柄、三つ揃えを着てお行儀良くふるまう姿は、まるでどこかからタイムスリップしてきたようだが、それが逆に新鮮、逆にスタイリッシュ、そしてユーモラス。監督は、視覚的な魅力に富んだキートンやタチの映画を参照したというが、さもありなん。古き良きものの中にある普遍的な魅力を主人公の存在を通して、きっちり描き出している。そしてそれが、そのまま今の世の中からはみ出した者への賛歌にもなっている。 移動式屋台での商売を思い立った主人公は、思いがけず、ウェディングドレスのオーダーを受け、一歩踏み出す。女たちの装いへの情熱が、彼にとっての活路を開くというのもまた面白い。そしてつくり出される美しいドレスが、また眼福なのだけれど、そこで光が当たる手仕事もまた、今、なおざりにされつつあるもの。映し出されるものひとつひとつが楽しく、意味のある映画。通り一遍のハッピーエンドではないところがまたいいのだ。

21/8/27(金)

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