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古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

想起の力で未来を:メタル・サイレンス 2019

東京国立博物館の敷地に接する一郭の小さな洋館ふうの建物。1933年から1997年まで使われていた駅舎だ。2004年の廃止後閉鎖されていたが、2018年に建物をリニューアル、「上野文化の杜」文化事業の一環「UENOYES」として、週末のみの一般公開ではあったが、駅舎内で作品展示も行われた。 今年もまた期間限定で一般公開されている。アーティストはスペイン出身のクリスティーナ・ルカスとフェルナンド・サンチェス・カスティーリョ。古色を帯びた入口ホールには、折れ曲がったブロンズ製の木とそれを支えるように真っ直ぐに立つ竹を使った、カスティーリョの立体作品。竹の指導に従うことができず折れ曲がってしまった木には、社会のルールに沿えない人々への言及が含まれているという。 そして階段を降りると、ルカスによる映像作品《Unending Lightning(終わりえぬ閃光)》。三面スクリーンに映し出されるのは、1911年から現代に至る空爆の歴史を膨大なデータに基づいて視覚化したものだ。左には1日ごとの空爆の場所と犠牲者の数、中央には空爆地を示すドットが次々と増えていく地図、右には当時の状況を示す写真が映される。データ収集と解析に各地の専門家の協力を得て、五年がけで制作された6時間におよぶ大作だ。数字とドット、記録写真は空爆という暴力のありさまを淡々と映し出す。 東京での展示に併せて、東京などの都市、広島と長崎を含めた日本に関する空爆データが追加された。通過する電車の轟音が、まるで爆撃音のように響く。破壊兵器としての爆弾と命の形を形成することもできる金属という物質、そして二つの作品を貫く沈黙は、人類の営みについての黙考を促す。声高ではないが、実直で真摯な問いかけが好もしい。

19/11/2(土)

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