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時代劇研究家ですが趣味は洋画観賞。見知らぬ世界に惹かれます。
春日 太一
映画史・時代劇研究家
グンダーマン 優しき裏切り者の歌
21/5/15(土)
ユーロスペース
ベルリンの壁が崩壊する前後それぞれの、主人公が直面する理不尽な現実が描き出される。 主人公は東ドイツの鉱山で働きながら、労働者側に立って歌手活動をするグンダーマン。彼は西側でのコンサート開催をエサにされ、秘密警察に情報を売ってもいた。そしてドイツが統一されると、そのことで苛まれることになる。 基本的に善人であるはずの人間が、ちょっとした欲から運命の落とし穴にはまり、そのことが後の重大な禍根となる。その理不尽な因果応報は松本清張のドラマのよう。大きく盛り上げるような劇的な展開や演出はないが、人間描写が緻密に積み重ねられていて引き込まれる。 加えて、幾重にも並んで濛々と煙をあげる原子炉、荒野の如き無機質な殺風景がどこまでも広がる露天掘りの鉱山、そこに設置された巨大な作業重機たち……。 時おり挿入される、こうした殺伐とした見慣れぬ威容の数々が映像のアクセントとして効果的で、主人公を含めた東側世界に生きる人々を覆う重苦しい空気を生々しく伝えていた。
21/5/14(金)