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和田彩花のパリ・アートダイアリー

パリでの1年半で見つけた10の大切なもの

毎月5日連載

第19回

約1年半にわたって、パリでの生活や大好きなアートにまつわることなどを綴って頂いた本連載ですが、和田さんの帰国にともない今回が最終回となります。最後に締めくくりとして、和田さんが大好きなパリで見つけた「10の大切なもの」をあげていただき、1年半を振り返りました。

1.“友だち”という存在

まずパリに行って気づいたのは、私、今まで友だちがいなかったんだなってことでした(笑)。日本にいたときは休みの日に友だちと外に出かけるっていう習慣がなかったんですよ。私にとって休日に遊びに行くっていうのは、一人で美術館に行くことだったから。でも、この連載でも何度かお話ししましたけど、パリに行ってから美術館にも友だと一緒に行ったり、全然自分は興味ないけど友だちから提案されたものに付き合って行ってみたりとかそういう時間を過ごして、「あ、友だちってこういう存在か」って初めて気づいたんです(笑)。

日本にいたときは、学校の友だちには仕事のこと、仕事の友だちにはプライベートなこと、という風にいつも何かしら相手に「話せないこと」があって。でもパリでは、別に誰も私の(仕事の)ことを検索したりもしないし、もし知ったとしても割とカラっとした雰囲気が流れていて、「あ、そう」くらいな感じで(笑)。

普通に出会った友だちに仕事の話をしてもいいんだ、っていうことも初めて知ったんですよね。お互いの仕事の話ができたのがすごく楽しかったし、プライベートの話も全てオープンに話し合えたし、話していいなって思える心を私自身が持てるようになったのがよかったなと思います。これから日本でもそういう友だちを作りたいです。できるといいな。

2.環境やエコへの意識

最初はすごく驚いたんですけど、フランスではスーパーとか薬局などに普通の製品とBIO製品(オーガニック製品)が両方置いてあって、日本ほど価格差がありません。日本のBIO製品は高いし、プレゼント用に買うくらいだったんですけど、自分用に日常の品としてBIO製品を選び、パッケージの裏に書かれていることをきちんと読んだりするようになり、環境への配慮をより意識するようになりました。

また、フランスにはコンビニのようにいつでも立ち寄れる便利なお店がほとんどないので、日々の食料については計画的に調達する必要があります。このことも、環境やエコを意識するようになった要因のひとつかもしれません。ある日、早朝から友人たちと遠足に行ったのですが、遠足慣れしている友人の一人が、全員分の朝ごはんを作って持ってきてくれたんですよ。そうか、手作りをすれば無駄な買い物もしなくていいし、ゴミも出ない。これは素晴らしいなって。ちょっと不便かもしれないけど、工夫すれば環境にも優しくなれる。そんなこともあり、自分でもいろいろ手づくりしたり、水筒を持ち歩くようになりました。

3.ものを大切に使うこと

環境やエコの話ともつながるんですけど、例えばフリーマーケットなどに行くと着古された服がたくさん売っていて、ちょっとくらい毛玉ができていたりしてもみんな買っていくんです。学校の先生も古いパソコンを何度も修理しながら使い続けていたりして。フランスの人たちのそういう姿に影響を受けて、私もものを大切にしたいとすごく思うようになりました。フリーマーケットで古着のコートを買ってきて大きすぎる肩パットを自分で外して着たり、友だちが蚤の市で買った古い家具を譲り受けて使ったり、いらなくなったら処分するんじゃなくて、次の人に渡したり譲り受けたりすることを心掛けています。

日本でも古いものをもっと使っていこうと思っているんですよ。私のおばあちゃんはひいおばあちゃんが使っていたタンスを使っているんですけど、それを「自分も使うと思っておこう」と思っています。いつか譲り受けたいです。

4.アジアの国々への興味

海外に出ると自分の国の良さに気づくということがあると思うんですけど、私は特にアジアの国々への興味がすごく強くなりました。前にもお話ししましたがアジアの友だちがたくさんできて、いろいろな話をしていくなかで、アジア出身なのに距離的には近い周りの国のことを全然知らなかったと気づき、その反省も含めて興味を持つようになっていきました。一緒に食事に行ったりすると、同じアジア圏でも食文化の共通点だけでなく全然違うところを知れたりして、それがとてもおもしろく感じました。麺や米の食べ方、調理法も国や地方によって全然違いますしね。

なので、アジアのいろんな国に行ってみたいと思っています。韓国と中国、あとは台湾、香港、ベトナムですね。友だちがいる国ということなのですが(笑)、いつか訪ねてみたいです。

「中国出身のお友達に誘ってもらった火鍋パーティーの写真です。写真右下の細長いうどんのようなものが、火にかけるとプルプルもちもちになってとてもおいしかったです。」

5.フランス流のガストロノミー(食文化)

アジアの食の話をしましたが、フランスのごはんの時間も大好きでした。フランスの人は大人数でゆっくり時間をかけてワイワイ話しながら、ちょっとずつ食べていくんですよね。どのお店もお料理が出てくるのがめっちゃ遅いんですけど、その間もずっと喋ってるから関係ないんです(笑)。

フランス人のすごくよくしてくれる友だちがいて、その友だちの家族と食事をすることもあって、それでフランスの家庭料理にもふれることができました。お気に入りは、薄切りのじゃがいもをミルフィーユのようにぎゅっと敷き詰めたスペイン風のオムレツと、夏に作ったトマトのサラダ。このサラダにはトマトと一緒にお米が入っていて、フランスでは夏の定番だそうです。

家庭での食事はサラダとオムレツだけとかとてもシンプルなんですよ。でも料理の前に必ずみんなでまずお酒を飲むんです。おつまみをちょこちょこ食べながら会話が始まって、メインの料理の後には必ずデザートがあって、ゆっくり紅茶やコーヒーを飲んで終わり。シンプルだけどすごくいい時間だと思いました。

今まで食べることに関してあまりうるさいほうではなかったんですけど、日本に帰ってきてもやっぱり食べるのが楽しくて。最近は基本、ごはん2杯です。やばいです(笑)。

(左)「南フランスで食べた魚の前菜、なんの魚だったか、どんな料理名だったかも忘れたけど、ものすごくおいしかった記憶だけがずっと残ってます。」(右)「ズッキーニの花の天ぷら、花の中にはフロマージュ!」

6.土日の朝の風景

土日の早朝のパリの景色が好きです。パリの週末って、街の立ち上がりが本当に遅いんですよ。街全体が寝ているみたい。でも、それが人間らしくていいなって思うんです。起きていない街を「起きていないな」って思いながら早起きして歩くのが好きでした。場所はどこでもよくて、家の近くとかを歩きながら“夜と全く雰囲気が違うな”って思ったり。そういう発見が楽しかったな。

街を歩いていて好きだなと思ったのが、パリの明るい色づかいです。パリの街には基本的に色がないというか、昔ながらの建物が多くて全体的にくすんだ色味のところが多いのですが、建物の内部は装飾とか色づかいに凝っていたり、カフェの屋根だったり、街に貼ってあるポスターだったりが、赤とか青とか、とてもはっきりした色を使っていることが多くて、それがとても映える。力強くていいなと思いました。

7.好きな服を着ること

パリに来て驚いたのが、パリの女性たちは年齢を重ねれば重ねるほどキラキラと輝いていて、ステキな着こなしをしているということ。いくつになっても好きな服を着て、おしゃれを楽しむってステキだなと思いました。

真冬のものすごく寒くて、ダウンで完全防寒したい時期に真っ青なコートを着てさっそうと歩くマダムを見かけたことがあったんです。それがめちゃくちゃかっこよくて。パリはアジアやアフリカなど、いろいろなルーツを持っている人たちが集まっている都市なので、いろいろなスタイルの人たちがいて、それをみんな当たり前のことと思っている。それもとてもかっこいいと思いました。とくにアフリカにルーツを持つ人たちが身につけているプリント柄に魅了されました。私はどちらかというと、シンプルなファッションが好きだったんですが、周囲の人たちに影響されて、色物や柄物も好んで着るようになりました。

8.無料で楽しめるアートイベント

ここでも何度かお話しをしていますが、パリでは毎月第一日曜日に多くの美術館への入館が無料になるんですけど、これが私にとっては最高でした。最近は予約制になってしまいましたが、1週間前から計画を立てて予約してめちゃめちゃ活用していました。

美術館以外でも、無料で楽しめるアート系のアクティビティがものすごく充実しているんです。よく覚えているのが、パリの中心を封鎖して設置された野外ステージで行われたダンスパフォーマンス。有名な振付師の方が率いるダンスチームだったみたいで、ちょっとヒップホップも入ったコンテンポラリー・ジャズのダンスだったんですけど、これが本当にクオリティが高いんです。これを無料で見られるなんて!と感動しました。

ほかにも野外での映画上映会とか、音楽ライブとか、無料で楽しめるイベントが街のどこかで毎週のように行われているから飽きないんです。アートの感覚が通じる仲のいい友だちがそういう情報を見つけるのが上手で、週末は何かしらそういうイベントに足を運んでいました。

9.「なにも問題はない」という姿勢

英語で「ノープロブレム」という言葉がありますけど、フランスでもこの言葉(pas de problème)を多用するんですよ。何かあったときに「ごめんなさい」と謝ると、「問題ない、問題ない」でOKになることが多くて。「問題ない」っていう精神が素晴らしいなと思いました。例えば日本語で「大丈夫です」だと、「大丈夫」の裏を考えてしまうことがあったけど「問題ない」の一言で済ませられると、お互い気持ちがいいんですよね。

交渉次第で何とかなるなと思ったエピソードがあるんです。以前、重さはそんなにないものの、大きさだけが規定を超えてしまう荷物を飛行機に預け入れしなければならなかったんですけど、受付のフランス人の女性の方が航空会社の人に交渉してくれて、規定の荷物として扱って頂けたことがあったんです。ルールはあるけど、可能な範囲で柔軟に対応してくれる、「ノープロブレム」の精神、ある意味の“緩さ”がいいなって思います。

10.ルールが全てじゃない

9番目の話の延長になるんですが、決められたルールだけがすべてじゃないということをフランスにいって実感しました。もちろんルールはあるんですけど、みんな自分のいいようにそれを解釈したり場合によっては無視したりしながら自分を主張して、たとえぶつかったとしてもなんとかなる、落ち着くべくところに落ち着くんだなと思ったんです。

これはもちろん「例え」ですけど、「赤信号は渡れ」って教えられたような気がしました(あくまでも「例え」です)。いままでは赤信号では車が来なくても絶対に渡らないタイプだったんです。でもそういうのが全く通用しないとところに行くと、(その慎重さは)何だったんだろう?と思ったりしました。すごく価値観が変わりましたね。でも日本に帰ってきて、こういう考え方がどんな場面においても通用する訳ではない、ということをすでに実感しています。難しいですね。

パリでの1年半を振り返ってみて、やりたかったことをやりきれたか?というと…、やりきれていないんです。私は目標を達成しちゃうと、すぐに次の目標ができてしまうタイプで、いつまでたっても満足できないんです。大好きな場所なので、楽しい思い出はたくさんあるんですけど、「楽しい」だけで終わらなくてよかった。満足してないから、またいつか絶対に行きたいと思っています。

以前に一度、自分の人生の価値観がガラっと変わるような体験をしたことがあったんです。そのときは、これ以上自分が大きく変わることはないだろうと思っていたんですけど、でも今回のパリでの1年半を経て、その時と同じくらいの自分の中で価値観が変わっていることを感じます。

今後は、パリでの経験をいかしながら、これまで少しずつ準備していた音楽活動を本格的に始めたいと思っています。年末にはライブも行う予定ですので、ぜひご期待下さいね。

取材・文:浦島茂世 撮影(和田彩花):源賀津己

★本連載は今回が最終回となります。12月以降は、また新しい企画がスタートする予定ですのでご期待ください!

プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。2015年よりグループ名をアンジュルムと改める。グループ及びハロー!プロジェクト全体のリーダーを務めたのち、2019年にアンジュルム及びハロー!プロジェクトを卒業。ソロアイドルとして音楽活動や執筆活動、コメンテーターなど、卒業後ますます活動の幅を広げている。アートへの関心が高く、さまざまなメディアでアートに関する情報を発信している。現在、フランス滞在中。