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坂東巳之助×シム・ウンギョン、初共演のふたりに聞く不思議な恋の物語『消えちゃう病とタイムバンカー』

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インタビュー

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左から 坂東巳之助 シム・ウンギョン 撮影:稲澤朝博

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梅田芸術劇場と英国チャリングクロス劇場による共同プロデュース企画の第2弾、ミュージカル『消えちゃう病とタイムバンカー』が今月、東京芸術劇場プレイハウスで開幕する。映画監督・長久允の作・演出で立ち上がるのは、まったく新しい世界観のオリジナル作品。注目必至、斬新な企画のもと、「世界一冷酷な男と、世界一感情が激しい女のラブストーリー」に挑むのは、歌舞伎のみならず映画やナレーターなど多彩な活躍を見せる若手実力派の坂東巳之助と、母国・韓国で確かな実績を認められ、第43回日本アカデミー賞最優秀女優賞に輝いたシム・ウンギョン。本番直前、絶賛稽古中のふたりに、刺激あふれる作品への思いを聞いた。

※こちらの公演は全公演中止となりました(4/14追記)

「Mをどうしても演じてみたいという気持ちが強かった」(シム)

――日英共同プロデュース、映画監督・長久允さんの演出など心惹かれるポイントの多い企画です。お話を受けてどのように思い、作品へ踏み出されたのでしょうか。

巳之助 最初に企画書と台本をいただいた時、まず“ミュージカル”と書いてあるのを見て、「これ、本当に僕に来た話ですか?」って聞きましたね。僕は歌が苦手なので、人前で歌うことは極力ないようにしたいと思っていて(笑)。でも、歌わない役のようなので大丈夫と。台本を読ませていただいたら、確かに歌っていない。しかもそれは物語の重要な部分であり、僕が演じる灰原という役は、歌を歌わないことに大きな意味があるキャラクターだったんです。台本を読んでもよくわからないところもたくさんあったし、演出も想像が追いつかなくて、どんな舞台になるのか頭の中で全然想像しきれていなかったんですが、とにかく面白いものになりそうだなと。また、この作品と直接関係はないかもしれませんが、歌舞伎の舞台が減っていて、なかなか舞台に立てる機会がない中でのお話だったので、とてもありがたく思いましたし、台本の印象と併せて、やらせていただこうという気持ちになりました。

シム 私は一昨年、初舞台で『良い子はみんなご褒美がもらえる』という音楽劇を経験いたしました。その時に、次の舞台のお仕事はもう少し自分が成長してから考えよう、もっと日本語の勉強をしてから……と思っていたんですが、思っていたより早く今回の舞台のお話をいただきまして。私も巳之助さんと同じで、台本を読んで「長久さんは本当に私をキャスティングされたいとおっしゃったんですか?」って聞きました(笑)。ただ、このMという役は私がこれまで演じて来たどのキャラクターともかぶっていないし、まさしくこんな性格の役柄をやってみたいと思っていたので、新しい挑戦になるんじゃないかなと思って受けました。それでもやっぱり大丈夫かな?って不安はありました。自分は韓国人で言葉の壁はあるし、舞台の経験もまだ少ない。そんな私が本当にこの作品をやってもいいのか、ちゃんと本番の最後までやり遂げることが出来るのか……と悩みました。それでも、演出が長久さんであること、そしてMをどうしても演じてみたい、その気持ちが強かったので、頑張って乗り越えるしかない! と思って挑戦することにしました。

正反対の灰原とM、それぞれに誰もが持っている要素がある

――灰原とM、おふたりの演じるキャラクターについて教えてください。また本作にどんな魅力を感じていらっしゃいますか?

巳之助 そうですね。灰原に関しては、感情を表に出さない、感情はもはやない……と言っても過言ではない状態の人間としてまず登場します。そんな人間がMと出会い、恋をするなかでどうなっていくのか……ということですが、僕としては、観客がこの物語を最後まで観た時に、灰原というキャラクターがどういう人間なのか、どういう思いであの場にいたのかを、お客さん一人ひとりの感じるところに委ねたい。なので本当に「観に来てください」としか言えなくて(笑)。自分がどうとらえているか、そういうヒントは、これから楽しみに観に来てくださるお客さんに対して、あまり出したくないんですね。基本、無表情でスッと立っていることが多いので、その“スッ”が何に見えるか、どういう心情の人に見えるかは、お客さんの感性に委ねる。そういった点も、この物語においては大きな部分を占めてくるんじゃないかなと思うんですよね。

この作品の面白さに関しては、灰原が歌わないことも大きく関わってくるんですけど、ミュージカルと題していますが、台詞の感情にメロディが乗ってくる……という一般的なミュージカルとは歌の使い方が違うんです。この作品においては、物語の中で“人物が歌を歌う”というシチュエーションとして見せていく、そこがミュージカルとしては新しい挑戦だなと思います。たとえば、Mが「聴いてください」と言ってから歌い出すとか、誰かが歌いながら登場したことに対して、灰原が「無駄な歌だよ」と言ったり。普通のミュージカルと比べると、ちょっと異質な世界かもしれません。だからこそ、歌は無駄だと思っている灰原は歌わない。そこもお客さんにとってどういうふうに映るのか、面白いところだなと思います。

シム 私は、最初は単純に、Mは極端な性格で、感情の振れ幅も大きくて、本当にこれまで演じて来たキャラクターとは真逆だなと感じていたんですね。でも、今、稽古で、Mの台詞を声に出して、動きもつけて、歌も歌って、灰原役の巳之助さんとお芝居をしてみて気づいたのは、これって今の世の中を生きる私たちのお話じゃないかなと。稽古をやっていて、Mの姿と灰原の姿、正反対のふたりにすごく共感出来るんです。私の内面にふたりの姿、両方ともあるんじゃないかなと思うくらいに。私たちの内面を描いた、すごく深いお話だなとあらためて感じています。そういうのをお客様がどういうふうに受け止められるか、楽しみにしていますし、その場面自体が、私が思っていた以上にシリアスというか、まさに演劇、シェイクスピアのように感じて……。長久さんと「シェイクスピアの舞台みたいですね!」って話したり(笑)。本当に、かなり私たちの内面に切り込んでくる作品じゃないかなと思っています。

巳之助 Mと灰原、このふたつのキャラクターが正反対に描かれているから、大多数の人はこのふたりの真ん中あたりじゃないかと思うんですよ。灰原のこういう部分もわかるし、Mのこういう部分もわかる、って人がきっとたくさんいると思う。で、おそらくそれはある程度、意図して作られていると思うので、ウンギョンさんのおっしゃる通りだと思います。たぶん誰もが持っている要素、無駄なことは無駄と感じること、自分の関心事には感情が大きく揺れ動くこと、そういった要素を極端にしか持ち合わせて来なかったふたりが出会う物語なので。場面によって、共感できる対象が変わったりもするんじゃないかな。すごくMに感情移入して見ていたのに、途中から急にMのことがわからなくなっちゃう人もいるだろうし。

シム ああ〜、そうですね!

巳之助 それくらい、いろんな人の心にハマったり、ハマらなかったりする。お客様にとっては面白い演劇体験になるんじゃないかなと思います。

「お互いにこんなに喋ったの、今日が初めてですよね(笑)」(巳之助)

――初共演のおふたりですが、お互いの印象、稽古中のエピソードなどあれば教えてください。

巳之助 今、ウンギョンさんのほかにも日本でも活躍されている韓国の方がたくさんいらっしゃって、なんだか“覚悟が違う”という感じがありますよね。

シム ええ〜!?

巳之助 すごく真摯な姿勢で、素敵なパワーを持っている方がたくさんいらっしゃるなと感じている中のおひとりだったので。実際にこうしてご一緒させていただいて、ご自身でもおっしゃっていたけどすごくストイックで熱心ですよね。日本語のイントネーションが少し違っている程度でも、それを修正しようとする努力がすごい。たとえイントネーションが違うとしても、ものすごい熱量でお芝居をされるので、見ていて素晴らしいなと。お互いにこんなに喋ったの、今日が初めてですよね(笑)?

シム そうですね(笑)。

巳之助 僕もどっちかというと人見知りするタイプで。ウンギョンさんもさっきそう言ってて、あ、そうなんだ〜と安心しました。嫌われたわけじゃなかったんだって(笑)。

シム いえいえ〜! 全然そんなことないです(笑)。

巳之助 だから今日、こんなにお話できてよかったなと思っています。

シム 私もです。私は、坂東巳之助さんという歌舞伎の役者さんとの共演にとてもワクワクしていました。稽古に入る前に巳之助さんがなさった舞台の映像を観たりしましたね。普通の舞台と歌舞伎では演技のトーンや動きも違いますが、マイクもなく地声でお客さんに向かって、どのくらいの声を出したらいいのか、どうお芝居を見せていけばいいのかを、私なりに稽古に入る前に研究しました。今、実際に稽古場で巳之助さんのお芝居を見て、とても勉強になっています。おっしゃるように灰原って大きい動きがないんですけど、ただ立っているだけでもすごい存在感で! 舞台はやっぱり安定感が大事だなと。頭ではわかっているつもりでも、実際にお芝居をしながら安定感をキープするのは非常に難しくて……。私はずっと映像の仕事をして来て、映像なら編集が助けてくれる部分もあるけれど、舞台はすべて役者自身がやらなくちゃいけない。そういう繊細な動きなどを、巳之助さんのお芝居を見て、勉強させていただいています。共演できて本当に光栄です。

巳之助 ありがとうございます。

皆が突然踊り出す?! とにかく自由な長久允の演出

――長久さんの演出について、どんな稽古が展開されているのか気になります。

シム 皆さんが突然踊ったり……。

巳之助 ハハハ、あれ、びっくりしたよね。

シム 稽古場にはダンサーの方々がたくさんいらっしゃるんです。突然、(共演の)菅原小春さんが『パプリカ』の曲を流して、皆さんで踊り出して……。その時、私と巳之助さんだけがボ〜ッと立ってて。(一同笑)

巳之助 何!?ってね(笑)

シム 私、気になったことは質問しないと我慢出来ないので、「今、なぜこれをやるんですか!?」って聞きました。「振付の前のウォーミングアップ?」ってしつこく(笑)。

巳之助 あれは実際のところ、何が起きたのか、ほとんどの人がわかってなかったみたいですよ(笑)。辻本知彦さんと菅原さんが振付していらっしゃるから、「やっちゃおうぜ〜!」みたいな感じで突如、始まったらしく。皆が盛り上がって動き回るシーンだから、テンションを上げよう〜みたいな意図だったらしい。灰原とMの結婚式のシーンなので、僕ら、ボ〜ッと立っていて正解だったかもしれない(笑)。

シム ああ〜なるほど、そうですね。

巳之助 長久さんも一緒になって踊っていました。長久さんは演出家である前に、この舞台の作者なので、いわゆる「演出家としてどうですか?」という質問には答えづらいところがありますね。ご自身が書かれたものを演出しているので、頭の中にあるイメージを具現化していく要素が強い。だから単純にディレクションだけを切り取って、感想を言うのは難しいかなと。

シム 私自身が、こんな演出家で〜などと語れる立場じゃないんですけど(笑)。長久さんの稽古は、とにかく自由です。今、足りないながら私なりにいろんなことを試して、やってみているんですけど、実際の私は人見知りで、そんなことを出来る性格ではないんですよ。頑張って必死にやらないと! と自分に言い聞かせて、悩んで悩んで悩んだうえで、やっと少しやる、というタイプ。前回の舞台『良い子はみんな〜』の時に、稽古場でいろいろ試すことが出来なかった後悔がありました。今、本当に覚悟をして、恥ずかしい気持ちを自分の中から捨て去って、必死にやっています。それを見守ってくださる長久さんの優しさに、とても助けられています。もう一度やってみよう、という勇気が出て来るので。長久さん、巳之助さんをものすごく頼って、稽古をしています。

舞台を楽しむ、それに尽きる(巳之助)
巳之助さんみたいに楽しもうと思います(シム)

――最後にこの作品との出会いでご自身に期待すること、課題などあれば教えてください。

巳之助 そういうことを考えながら芝居をするタイプじゃないので(笑)、期待や課題……、今言われるまでみじんもそういうことを考えていなかったです。歌舞伎役者がミュージカルに挑戦、とか思い入れありそうに思われるでしょうけど、あんまりないんです(笑)。舞台を楽しむ、それに尽きるって感じです。

シム 巳之助さん、凄いですよね。私はやっぱり生の舞台が怖くて。経験が少ないから……なんていつまでも言っていられないので、自分に負けずに乗り越えなくちゃと今、頑張っています。稽古場ではもちろん、演技をしていて楽しい! と少しずつ感じるようになってきましたが、本番でちゃんとやれるのか、そのためにもいろいろ試さないと……! とその悩みで頭がいっぱいで、ずっと緊張しています。巳之助さんのお話を聞いて、もう少し余裕を持ってやってもいいなと思い始めました(笑)。

巳之助 ハハハ、いや、僕も舞台に立つ時は普通に緊張しますよ(笑)。

シム この素敵なお話、素敵な役をちゃんと演じたいという気持ちが強くて。それには自分が努力するしかない。でもその役になるためには、舞台の上で、楽しんでやらないとダメですよね。もうちょっと巳之助さんみたいに楽しもうと思います。

巳之助 僕、別に手を抜いてやっているわけじゃないですからね。(一同笑)


取材・文:上野紀子 撮影:稲澤朝博
ヘアメイク/伏屋陽子(ESPER) スタイリスト/藤長祥平、吉田恵



公演情報
ミュージカル『消えちゃう病とタイムバンカー The Vanishing Girl & The Time Banker』
作・演出:長久允
音楽:愛印(山田勝也、小嶋翔太)
出演:坂東巳之助 / シム・ウンギョン /
菅原小春・三浦涼介 / 古舘寛治 / 神野三鈴 / 他

※こちらの公演は全公演中止となりました(4/14追記)

【東京公演】
2021年4月17日(土)~2021年4月25日(日)
会場:東京芸術劇場 プレイハウス

【大阪公演】
2021年4月30日(金)~2021年5月1日(土)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

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