宮本が表現する歌世界を見事なバンドサウンドで彩ったメンバーは、名越由貴夫(Guitar)、玉田豊夢(Drums)、キタダ マキ(Bass)、そしてバンマスの小林武史(Key)。小林と名越は初シングル『冬の花』から、玉田は『P.S. I love you』から、そして最新アルバム『ROMANCE』ではキタダも迎え入れ、今回のメンバー4人が揃ってレコーディングに参加した。言わば宮本の音楽の良き理解者であり、盟友とも言える存在のメンバーたち。その盤石なバンドサウンドを後ろ盾にし、この日の宮本の姿は歌うことの喜びに溢れていた。そしてフレッシュな衝動に満ちていた。
ライブは、薄暗い夜の闇の中、宮本がランタンを片手に登場するところから始まる。紗幕の向こう、オーガニックなバンドサウンドが響いて、宮本の力強く伸びやかな歌声が重なる。徐々に開けていく空と大地をイメージさせるスクリーン映像とライティング。「夜明けのうた」が、この日のオープニングを、そして宮本浩次のシンガーとしての真の目覚めを彩るような、そんな壮大な始まりだった。そのスケール感は、続く「異邦人」(久保田早紀のカヴァー)に見事に引き継がれる。哀愁漂うバンドサウンドに艶のあるボーカルが異国の景色を浮かび上がらせ、アウトロのバンドアレンジは、空が崩れ落ちそうな混沌を表す。宮本はそのカオスを身を以て表現する。そして上着を脱ぎ捨てステージ前方に飛び出すと、そこはなんとせり上がりの仕掛けで、宮本が上へ上へと上がっていき、始まったのは「解き放て、我らが新時代」。オーディエンスのハンドクラップだけをバックにラップするパートなど、ラフで自由な空気がとても心地好い。そして「きみに会いたい-Dance with you-」は、TV番組『The Covers』で披露したスペシャルアレンジを踏襲する形で披露された。バンマス小林武史とのピアノとボーカルの応酬からバンドサウンドへと展開し、ブラックミュージックのフィール満載で突き刺さる歌声にゾクゾクする。素晴らしいダンスチューンだった。
だからこそ、カヴァー曲だけでなく宮本自身のソロ曲にもまた、この日は抑えようのない衝動を感じる場面が少なくなかった。「Do you remember?」のエネルギーの放出、魂の叫びは凄まじかった。自分の持てる歌への思いをすべてさらけ出すような歌。そして宮本のソロデビュー曲である「冬の花」は、この日、このセットリストの中で、その意義、本質を浮き彫りにしていた。宮本がソロとして表現したかった音楽が、いま理想的な形でライブ披露され、見事に心を射抜いた。この日の宮本は、コンサートの合間に何度も何度もバンドメンバーの名前を紹介していた。このバンド編成でのコンサート、その実現に高揚していることがよくわかる。
第一部のラストは「P.S.I love you」だった。《I love you》という一番シンプルで普遍的な言葉を歌にした楽曲は、歌とメロディという、日本の音楽の魅力の大元へと立ち返るような名曲である。腕を大きく広げて歌い終えた宮本は、充足感に満ちたとてもいい顔をしていた。そして一部の終了を告げ、「そう遠くない時間にまた会おう」とステージを後にした。